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グレッグ・アラキ『ドゥーム・ジェネレーション』/Filmed on location in Hell

 2024年11月8日(金)から、グレッグ・アラキ監督による1995年の映画『ドゥーム・ジェネレーション』がデジタル・リマスター版でリバイバル公開されている。


 『ドゥーム・ジェネレーション』は1990年代の米国社会を舞台に、若者たちの彷徨と絶望を描いたロードムービーである。当時の米国インディーズ映画の象徴的な作品であり、その歴史的意義は無視することはできない。アラキの「ティーンエイジ・アポカリプス三部作」の2作目に位置し、当時の若者文化や社会的な不安、性的アイデンティティに深く根ざしたテーマを描き出す。ローズ・マッゴーワン、ジェームズ・デュヴァル、ジョナサン・シェックがキャスティングされ、彼らが演じるキャラクターは暴力や愛、自己破壊の狭間で揺れ動く姿を見せる。

 ストーリーはシンプルだ。若いカップルのエイミー(ローズ・マッゴーワン)とジョーダン(ジェームズ・デュヴァル)が、謎の男ザビエル(ジョナサン・シェック)と出会うことから始まる。彼らはアメリカ中を彷徨い、次第に予測不能で暴力的な方向へと進んでゆく。

 本作の魅力は、その独特な映像美と荒廃した世界観にある。狂気的な事件や暴力、そして性的な探求を赤裸々に描き、過激な視覚表現とブラックユーモアで彩られる。荒涼とした風景、夜のネオン、若者たちの虚無的な表情が、当時の米国の社会不安や世代間の溝を反映する。過激なセックスやバイオレンスシーンも特徴的で、カウンターカルチャーやアンチテーゼを視覚的に体現している。エンドロールにはこう表示される。「Filmed on location in Hell」と。

 しかし『ドゥーム・ジェネレーション』の真の力強さは登場人物たちのキャラクター描写の深さにこそある。エイミー、ジョーダン、ザビエルは、それぞれ傷つき、迷い、そして破壊的な行動に走る。彼らは希望を失い、未来が見えない世代の典型的な姿であり、その苦悩と葛藤は現代にも相通ずるものがある。

 歴史的にも『ドゥーム・ジェネレーション』はアメリカのインディーズ映画界に大きな影響を与えてきた。本作はLGBTQ+映画やクィア・シネマにおける先駆的作品と見なされ、当時の社会ではタブーとされたテーマに正面から挑んだ。アラキは『トータリー・ファックト・アップ』(1993)や『ノーウェア』(1997)と共に「ニュー・クィア・シネマ」というジャンルを形成し、90年代における性と暴力、疎外感とアイデンティティの問題を探求した。インディペンデント映画における「ジェネレーションX」の心情や不安を反映し、主流のハリウッド映画が描かない若者のリアリティやエッジの効いた内容が新鮮に映り、後に多くの映画監督に影響を与えた。

 『ドゥーム・ジェネレーション』の露骨な表現や挑発的なテーマは、観る者に強烈な印象を与えるが、それと同時に、90年代における文化的、社会的な変化を鮮明に映し出した作品として、映画史において重要な位置を占めている。アンダーグラウンド映画としての強烈な個性を放ちながらも、社会に対する批判と洞察を内包した作品であり、その先鋭的な内容と大胆な表現が今なお多くの視聴者を魅了し、議論の的となっている点で、時代を超えてその価値を持ち続けている。


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