極貧詩 322             旅立ち⑦

卒業式終了
全員に感動の余韻が色濃く残る
最後のホームルーム

教壇から下へ降りた担任の先生
37名一人一人と順番に眼を合わせる
先生の眼がまた潤み始める
静かに熱く話し始める

「さあ、みんな、これで義務教育が終わったな」
「やらされる勉強はもう終わりってことだな」
「明日からは何でも自分で決められるんだぞ」
「だけどその結果には自分で責任を持つってことでもあるんだ」
「そんなこと言われたってって思うだろう」
「高校へ行く、会社や工場へ行く、家に残る、向かう道は違う」
「これからはやらされ勉強じゃなくてやらなきゃ勉強だ」
「これからは指示待ち仕事じゃなくて自分から率先仕事だ」
「これからはお手伝い仕事じゃなくて自分メイン仕事だ」

全員の眼は真っ直ぐに先生に向いている
ホンワカしっとりムードは消えている
先生の最後の言葉を一言も聞き逃がすまいという意志が感じられる

「みんなが今日の卒業式を迎えられたのは誰のおかげかな」
「考えるまでもないよな」
「みんなのお父さんとお母さんに決まっているよな」
「みんなが生まれてから15歳の今までこんなに大きくしてくれたんだ」
「みんなの成長を何よりも楽しみにしてな」
「これからどうやってお父さんお母さんに感謝の気持ちを表すのかな」
「感謝の気持ちはみんなの頑張りでしか表せないよな」
「まずは怪我をしないで健康でいること」
「自分の成長を自分の行動で示すこと」
「みんながこれから進んで行く場所で一生懸命がんばること」
「人に感謝し、いつかは感謝される人になること」
「みんなは前途洋洋って言葉を知っているかな」
「前途は行く先、洋々は水が満ちているようすを表すんだ
「これから進む先が豊かに満たされている、ということだ
将来が希望に満ちている、という意味だな
「英語で言うとa young person with a bright futureかな」
「直訳すると、明るい未来がある若者かな」
「a promising young personでもいいかな」
「これも直訳すると、将来見込みのある若者かな」
「いいか、みんなは前途洋洋なんだ」
「前途洋洋って言う言葉はみんなのためにあるんだぞ」

後ろの席の方から大きな声が聞こえる
「先生、今言った英語の言葉を黒板に書いてください」
「ノートに書いて覚えたいんです」

先生はうれしそうに黒板に英語を書き始める
全員が鉛筆とノートを取り出す

英語を書きながら言った先生の言葉に全員がまた涙腺崩壊寸前になる



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