極貧詩 316 旅立ち①
3月15日
今日、中学校から旅立つ
旅立ちを祝うかのような快晴
クラスメート全員と会えるのも今日が限り
自ら望まない限り先生方とも会うことはなくなる
用務員のおじさんはずっといてくれるのだろうか
道路から短い橋を渡って坂を上ることもなくなってしまう
左側から聞こえる川のせせらぎを聞くこともなくなってしまう
川の向こうの深い杉林の間から覗く朝日を見ることもなくなる
黒い学生服の男子
濃紺の制服に白いマフラーの女子
黒いスーツに白いネクタイの父親
着物姿が目立つ母親
今日は晴れの卒業式
全員が踏みしめるようにゆっくり坂道を上る
話し声は時々しか聞こえない
過ぎし日々を思い起こしているのだろうか
我が子の成長に感無量でいるのだろうか
進学、就職、家を継ぐ、道はそれぞれ分かれる
校門の前に人だかりができている
すぐに校門をくぐらず父母たちが一礼している
後ろに続く人たちも見習って一礼している
シゲちゃんと母親
ヤッちゃんと母親
山本君と父親と母親
俺と母親
順番は違うが同じように校門に一礼する
卒業生37名とその母親、父親
在校生よりも30分早く集合する
卒業式会場の音楽室に入る
父母席は最後尾
在校生席は真ん中
卒業生席は最前列
正面から見て左側に来賓席
正面から見て右側に職員席
名簿順の指定された席に着席する
何度も行われた式進行の予行演習
練習の時のヘラヘラ顔は一切ない
全員が緊張の表情をしている
卒業生全員が所定の位置に着席する
父母が後列の席を整然と埋める
在校生が入室、2年、1年の順番に着席する
しばしのざわめきがシンと静まり返る
来賓、職員が粛々と所定の位置を占める
中学校生活の最後を飾る厳正な雰囲気に身が引き締まる
司会の先生の低い声が地を這うように聞こえる
「只今より卒業式を開会いたします」
緊張感がいやがうえにも高まる