黒よりも暗い -18-
たまに人間界へ足を運ぶ。人間界との関りを減らしているせいか、人間界の動きについていけないとハッキリと感じるようになる。何を話しているのかわからない。言葉はもちろんわかる。内容がわからないのである。わかろうとしないのも理由の一つだろう。私は異物ではなるが、この世は広いのだろうか。どこかに私の話を聞いてくれる者は存在しているのだろうか。旅に出たい気持ちは以前からあるがなかなか足が動かない。奴隷根性が染みついて嫌なのに元の環境を求めている私を感じる。どうして嫌なのに戻るのか。他に新たに面白そうなものが見当たらないから、しょうがなく既存のものを選んでしまう。このパターンが長期間にわたって長すぎる。この様なうだつの上がらない人生にどっぷり浸かっている。この悲惨な海では溺れないらしい。不思議だ。システムが止まらない。間違っていようが止まらない。間違っていると気付くので強制停止する。再起動する。同じ過ちを起こす。こうなったら機器そのものを廃棄するしかないのか。しかし機器はこれしかない。何度も再起動するしかないのか。新しいプログラムを打っているのだが上手くいっていないらしい。自分を責めてもしょうがないが、責めるしか自分を支えることできない。昨日の失敗をまだ引きずっている。後悔してももう間に合わない。自分が情けなくなる。こういう人生が長すぎる。迷路なのだろうか。人生に路はあるのか。路があるのだとしたら完全に迷っている。かなり抜け出せない状況が長く続き途方に暮れている。クタクタに疲れているのに歩き続ける。目星もないのにただ歩き続ける。歩くしかできないのだ。歩くを努力と捉えられないなら既に私には価値が残っていない。あるとすればウジウジと悩むだけ。どんなに歩いても門を叩いても先が見えない。路が開けていない。迷路は白い。汚れていない。これは夢か。もちろん誰もいない。声もしない。何も音がしない。微かに風の音が聞こえる。洞窟から外へ出たと思ったら迷路であったのか。それとも洞窟を含めこの周囲一帯が巨大な迷路となっているのか。井の中の蛙か。私が思う以上に迷路は巨大なのかもしれない。だとしたら脱出はほぼ不可能である。この中で私は死んでいくのか。あの妖怪の集落も迷路の中にあるということか。だからあんな死んだような目で皆生きていたのか。いや既に死んでいるようなものであった。私も死んでいるようなものだ。生きている実感なんてない。陽が差し込んでくる。夕焼けのような朝日。それとも今まで見てた陽は夕日であったのだろうか。再び雲で遮られる。陽は確かにある。私も明ける日が来るだろうか。とてつもなく長い。私自身もう何が何だかわからず自分以外のもののせいにしているのかもしれない。冷静に心も頭も整理しなくてはならない。しかし、独りの時間が長すぎて整理する意義も感じられない。たまに人間に会うだけで常に整理なんかしてられないのが本音である。どちらかと言えば既に独自の文化を形作ってしまっているのか。もう人間社会には完全に戻れない。とにかく変化して周囲に合わせなければ適合できないであろう。自分を見せるなんてもってのほか。絶対にやってはいけないことである。やってしまうと人間は私から離れる。そして迎合しても駄目だ。虐められる。八つ当たりされる。自分を晒し出さずに迎合もしない。とにかく中庸である。人間社会で生きるには中庸である。可もなく不可もなくロボットとしてなら生きていける可能性はある。しかしそれが嫌で飛び出してきたのであった。孤独が辛い過ぎて人間社会に未練を抱いている私は悲しすぎる。自分でもそう感じている。悲しい人生である。気付いているのに変われない。知恵が出ない。行動できない。苦しい。私は何をしたいのだ。自然を駆け回りたい。風と飛び回りたい。雲と一緒に寝ころびたい。太陽の日差しを目一杯浴びたい。川の流れに沿って散歩したい。それだけである。それだけである。それ以外はしたくない。人間社会に関わればほんの少し孤独の寂しさを解消できる。その代わり心は傷つき、体は重く倒れそうにへとへとになる。これが私の精一杯な環境作りであった。失敗ばかりである。いや、失敗さえもしていないのかもしれない。とにかく独りでぐるぐると同じところで同じつぶやきをしている。こんな人生で本当に終わるのか。終わる気か。私はまだ何者でもない。私は本当に生きているのか。私の人生は始まっているのか。これが人生なのか。まだ始まっていないだろう。始まっていないのに終わりが来るのであるか。これが人生なのか。これが人生と諦めようか。覚悟をしようか。これも私の人生である。私自身は受け入れ難くともこれも人生である。嫌で苦痛な人生でも私の人生である。変えることもできず変えたいと思って1ミリも変わらない。私の人生は不変である。どうやら私の人生は不変の法則は成り立つらしい。これほどまでに不変があるものであろうか。太陽も空も雲も変わらない。なら別にいいかと思えてもくる。早く自然に組み込まれたい。早く人間を辞めたい。鬼を辞めたい。生命の源へ還りたい。ここにいる理由はない。居続ける気もない。心残りはない。風が靡く。人間社会ではなく生命の源に靡きたい。相変わらず人間を好きになれそうにはない。
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