黒よりも暗い -5-
昨日より体が重かった。なんだこの体は。寝たような気もあるが、寝た実感はない。体は常に起きている。常に疲れている。体からの苦情。叫びまで感じていないが自身で抑え込んでいるのかもしれない。もっと前から叫んでいたらよかった。体のしんどさだけが生きる実感である。それ以外は無い。外の景色はあるようで無い。動いているようにも見えるし動きそのものが無いようにも感じる。私は生きているのであろうか。生きていないのにくるしいのであろうか。既に死んでいたら?過去に交通事故を起こしたときに私は既に死んでしまっているのではないか。だから周囲は私を通り過ぎていく。私が見えていない。たまに、私を邪魔な存在に見えるときには話しかけられるようである。私を利用しようとすときに話しかけられる。近づいてくる。近しい間柄のように。事が済むと何事もなかったように去っていく。どうやら生きているみたいだ。もちろん悔しさもあるが、それ以外周囲は私の存在に気付かない。いくら声をかけても聞こえていない。いつの間にか自ら手を伸ばすのを諦めた。この場所で私はいつまで生きればよいのだろう。手は動く。目も動く。呼吸もできている。ただ生きている。それだけでは不満だがそれだけでしか生きれない。どうこの場所から飛び出せるかを考えるがわからない。とりあえず動こうとしても失敗する。飛ぶ以前に上手く走れない、歩けない。私はいつから妖怪になったのだろう。昔は人間だったはずだ。人間らしい生活をしていたはずだ。今では懐かしく感じる。今は比較にならないほど暗闇の中にいる。誰もいない。どうしてこうなってしまったのだろう。わからない。途方に暮れる。もう彼是長い間途方に暮れ続けている。しばらく私の顔を見ていない。昔は笑顔が素敵と言われた記憶がある。疾うに笑顔は忘れた。笑い声も聞こえない。どんな声だったのだろう。私に顔はあるのだろうか。私の声も聞こえない。生きているのが不思議だ。もう死んでしまっていい。とにかく苦しい。息が詰まる。止まってしまいたい。私全てを停止させたい。私を終わらせたい。私は無くなりたい。喜びや楽しみ、胸の鼓動、そんなものは忘れた。人間の義務がお金を稼ぐことなのであれば私は人間失格である。私の住む世界ではお金を稼がなければ生きていけない。お金を稼がないと親であろうが友であろうが恋人であろうが否定される。最悪殺される。お金を上手く稼げない私は近いうち殺されるであろう。例え自殺してもそれは私が私を殺したのではなく、世界から追いやられ、いたしかたなく私が私を殺すのであり、その意味では私は世界に殺されるのである。しかし、力の無い私はいたしかたないのである。弱者は強者に殺されるのはこの世の理である。動物の世界では生きるために弱者を殺して食べる。世界は生きるために人々から殺す代わりにモノを摂取する。摂取できなければ殺すのである。摂取するために上手くお金を稼げない人間を活用しようとはしない。活用しようとしているが私自体が相当使えないスクラップであるのも否めない。ボタン通り動けないロボットは毀損されるのである。だから私はここへ来ているのかもしれない。ここへ来たのはごく自然なことなのかもしれいない。ふと思う。ここで私の居場所を作るのも悪くないと思った。洞窟の中は気になるが、洞窟の中以外で少しずつ私に必要なものを揃えていこうか。どうせすぐ諦めるであろう。私の性格は知っている。常に飽きる。そのくせ留まる。自分で自分がわからない。周囲に指標を求めるくせに言うことをきかない。自分で自分がわからない。一秒ごとに自分が変わる。そのまま身を任せたい。しかしそれだとこの世界では生きていけない。抵抗、負荷が自分の身に起こるとパニックになる。死にたくなる。息が苦しく窒素死しそうだ。そんな自分が嫌になる。自分で自分を殺したい。でも殺せない。自分が歯がゆい。かと言って自分を嫌いにはならない。そんな自分に苛立つ。よくわからない。自分で自分のことを理解できない。考えれば考えるほどわからない。考えるのを辞めればよいのだが、一つの場所に身を任せるとその場所から拘束がある。その拘束に抗うべく考えざるを得ない。でも考えるのが疲れる。考えたくない。でも考えないと窒息死しそうで辛い。まるで回遊魚である。もう長い。もう長いこと行く当てもなもなく泳ぎ続けている。居場所がない。いつの間にかここへ来た。ここに留まっていても息苦しい。絶望的に苦しい。しかしどこへも行く場所が無いのだ。もうどこへも行く場所が無い。みつからない。同じ場所でぐるぐると泳ぎ続けるしかないのであろうか。私は回遊魚である。そうか私は人間でもなく妖怪でもなく回遊魚なのかもしれない。海はどこにあるのだろうか。ここは海ではないことはわかる。海へはどこへ通じているのだろうか。洞窟の中は海へ続いているのだろうか。それともこの場所以外から離れると海へ行けるのだろうか。苦しい。窒息死しそうだ。常に泳ぎ続けたい。いつも動き続けたい。なのに動かず考え続けている。おかしな回遊魚だと私自身思う。常に考え続ける回遊魚。海へ行きたい。海で泳ぎたい。