♪コンテスト参加記事 【所作】
自身の世界を己が掌中に収めた人たちが、俯きがちに手元を凝視しながら、次々とこちらに近づいてきます。
自分から咄嗟に回避すると逆に危ないことも、経験値として学ばせていただきました。
「実は目玉が4つ、もしくは特殊なコンタクトレンズで前方も確認できるのかな?」
稀に身体が触れる寸前のすれ違いもありますが、テレビゲームの登場人物さながらの変則ステップ、神業としか思えません。
還暦越えの私が幼かった頃だから、単純逆算で半世紀以上前。
朧気な記憶を手繰ってみる・・・・・・もとい、手繰らずにはいられない場面の連続です。
21世紀の未来を紹介する絵本、宝物というほどではなかったけれど、結構読み返していたような。
そこに描かれていた人物は、誰もが豊かな表情で瞳を輝かせていたはずなのに。
機能的に美しく整備され、遠い日に未来都市と紹介されていた街並み。
三次元の生活空間に溢れる、スタイリッシュな最新鋭アイテムの数々。
あの頃フィクションとして紹介されていたあれもこれもが、疑う必要もない現実に。
#想像していなかった未来
極私的にはこの1点だけが突出しています。
行き交う多くの人々の所作。
<黄色い悲鳴>
天命を知る年齢を機に、諸々の偶然に招かれた、我がホーム・タウン。
人気の閑静な高級住宅街とされるこのエリアにも、私たちが暮らせるお手頃賃貸物件が存在していた幸運。
ベランダの真正面数百メートル先には、青春時代をすごした母校(高校)の鉄筋校舎。
入学時には真新しかった校舎も、半世紀を経て老朽化が隠しきれず、耐震補強工事などで随分姿を異なるものに。
他にも複数の学校が点在するエリア、平日朝の駅前は学生たちで溢れ返っています。
ここが終の棲家になればいいな。
そんなお気に入りの町ですが、登校登園時間帯は極力外出を控え、駅周辺には近づかない自衛を選択しています。
「きゃあああああっ!」
声の主は駅改札口を目指し、一生懸命走っていた女子高生。
元気よく腕を振っての疾走、その掌から勢いよく飛び出した物体アリ。
宙を舞い放物線を描き、車道に落下。
そこからタイヤの下敷きになるまで、3秒も要しませんでした。
その場にへたり込む彼女をめがけ、スマホ運転の電動機付自転車が。
褒めてはならない見事なハンドルさばきで、接触寸前も涼しい顔で交わし、減速もせずに走り去っていきました。
君子ではないけれど危うきからは離れるに限る。
続いて改札口を目指して近づいてきた小走りの女子高生から、今度は私の目の前に落下物が飛来。
制服のポケットから飛び出したのが幸か不幸か、小さな放物線にとどまったらしく。
コンマ数秒未満の躊躇。
善意で先に手を伸ばして拾い上げた結果、理不尽な冤罪のプレゼントが届いてしまいかねないのが、令和の世の中。
そんな自問自答よりも先に、条件反射で身体が動いてしまう世代です。
「ありがとうございます!」
何度も頭をさげてくれた彼女の背中越しの高架駅に、目指していたであろう電車が滑り込んでいました。
<高架駅構内>
一昔前では考えられないほど清潔かつ機能的な、駅構内の男性用トイレ。
3器並列の小用便器には、先客2名の背中が並んでいました。
大学生と思われる両名そろって、視線は手を離して置かれた小さな画面に釘付けでした。
1人は荷物棚に斜めに立てかけ、用を足し終えても一物を片手で支えたまま、一向に動かず。
そして残念すぎた他方の男性は、緩やかな傾斜がついた陶器製の表面上部に、画面を上にして・・・・・・
慣性ならびに万有引力の法則。
摩擦係数が小さすぎた不幸。
小便は急には止まらない。
彼にとって命と同等に大切であろう精密機器に、自らの聖水を降り注いでいました。
叩き出されるように一応最終学歴高卒の私には、未来を担う高学歴の若者が理解できませんでした。
心のなかで合掌と十字を切り、ご愁傷様の四文字を無言で唱え、踵を返しました。
<日常光景>
新幹線の車内を舞台にした、こんな苦笑い話も、早くも経年劣化が隠せぬようです。
「ただいま進行方向左側に、冠雪が美しい富士山がご覧いただけます」
車掌さんのアナウンスに、乗客の大半が条件反射的に、手元の小さな画面を確かめていたとか、いなかったとか・・・・・・
「めんどくさいねん! 長い話はイヤやねん! 漢字苦手やねん!」
仕事机上のラジオから、人気女性パーソナリティーの元気な声が。
もちろんキャラを演じる発言口調も、この時点で30代前半の彼女。
おそらく半分ホンネなのだろうと、その匙加減すなわち口調加減に、素直に感服でした。
さすがはお喋りのプロフェッショナルだな。
そして同時に、私が発する日本語は絶対に、彼女には好まれないことが確定。
いわゆるサイレント・リスナーですから問題はありませんが、ちょっと残念かも?
商業施設に限らぬキャッシュレス化促進先導の同行については、以前自身の配信で触れたので、ここでは控えます。
「そんなに怒らなくていいでしょ!? 今日はそおーっと入れたのだから」
精一杯の接客話法を逸脱した強い口調の主は、おそらくこの銀行の支店長。
対して高齢手前の女性は一歩も引かず、このやりとりが半ばお約束になっているであろうことを、居合わせた大多数が理解していました。
ATMの小さな受入口に、大量の小銭を山盛り投入すれば、当然溢れ返ります。
ほどなくフタが閉まる自動アナウンスからの警鐘など、彼女にとっては雑音未満。
結果フタが小銭を挟み込んでしまい、ATMは立ち往生。
「ですから何度も申し上げていますよね!? 一気に大量投入はダメだと」
「だから今日はそおーっと置いたのに・・・・・・お客の私が悪い、とでも言うの!?」
政府の指針であろうキャッシュレス、とりわけ小銭硬貨の撤廃に対応すべく、ATMの受入口が貯金箱の投入口のようになって、そろそろ久しく。
そんな一方でお札に関しては、高額以上の血税を用いてのフルチェンジです。
二千円札って見ないよな?
スマホ決済その他精密機械に全面依存の結果、立ち往生から結果マイナスとなる場面、全国各地今この瞬間も、数え切れないことでしょう。
昭和の時代、機械に支配される人類を描いた映画があったような?・・・・・・
その日訪れたデパートのとあるフロアは、高級ブランドのテナントが並ぶ、いわゆるセレブな空間。
下りエスカレータに乗っていると、数段上からコーヒーの滴が降り注いできました。
振り返ればひと目見て高額と判るファッションに身を包んだ、40~50歳くらいとお見受けする、上品なご夫婦。
非常識とは完全に無縁と思われる容姿に反し、男性の片手にはテイクアウトのコーヒーカップが。
庶民の普段着姿の私に謝罪するでもなく、
「あーあ、零れちゃった!勿体無かったわね。ウフフっ」
「零れない容器のハズなのにな・・・・・・まっ、また買えばいいさ。アハハっ」
あくまでエレガントを気取ったようなご夫婦の会話、ここはデパートの店内、しかもエスカレータ。
人は見た目の第一印象が、何割だとされていたかな?
上得意さまのご機嫌を損ねてはならない、接客マニュアルなのでしょう。
現場を目撃してしまった不運な店員さんは、逃げるようにその場から離れていきました。
店舗にお客様の声を届けたところで、無意味な時間労力通信費でしょう。
そういえば通勤ラッシュの電車内でも、こんな乗客が少なくないような?
未来の常識礼儀作法ってヤツに関しては、私は赤点失格らしく?
それでも学び直して受け入れ、今の物差しを修正するつもりはありません。
そしてもうひとつ。
ここで怒りを露わにすれば、問答無用で私が加害者にされる確率 = ほぼ100%。
経済力は彼らに銀河系レベルで及ばずとも、これくらいの判断力は常備しているつもりです。
「常識が変わったのよ」
「そうかもな。かつて切り捨て御免がまかり通った時代もあったくらいだからな」
エスカレータを降り、他のお客さまの往来の邪魔にならないところで、還暦越え夫婦が呆れ半分の苦笑い。
ちなみに染みついてしまった茶色の液体は、幸いにも帰宅後の洗濯で、綺麗に消えてくれました。
<終章>
ここまでお筆先で一気に綴ってみて、素朴な疑問がわき上がっています。
未来を真剣に想像したことなど、実はなかったのかも?
人間っていう生き物は、その高度な知能ゆえに頑固な反面、意外と柔軟な適応力にも富んでいるようです。
(例)大数の法則に疑いなく右へ倣え。
たとえばこれなどは、大多数の人たちの得意技ならぬ、日常の自然な判断姿勢でしょう。
そしてこの行為が数え続けられた結果、価値観その他の基準が、変化を見せていくのでしょう。
所作(しょさ)。
「何て読むの!? ところさ? しょさく?? ところつくり???」
遠い日のあの絵本のなかで描かれていた、未来すなわち現在の私たちの姿。
その所作はあくまで自然で美しく、周囲の人たちへの心遣いまでもが、無理なく滲み出ていたような?
未来へと続く時間旅行は、変化との二人三脚。
自身の理想を押しつけるつもりこそありませんが、せめてこんなふうに。
・脱線迷走経由の進化なら大歓迎も、悪化退化にだけは及ばないでほしい。
だからこそ今一度、自身の歩み方 & 襟を正し直して。
次世代が想像していなかった、残念な未来の種子を撒き散らさぬためにも。
「この記事長すぎる! 漢字多いし意味不明やし、むつかしくて偉そうやし、なによりスマホで読みづらいねんっ!」
小さな精密機械を片手にイヤホン常備じゃないから、空耳ってヤツかな?
(※11/19/2024・書き下ろし)