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♪コンテスト参加記事 【偶然鼓膜に届いた教え】
「こら!手を止めるな!」
現場指揮官を務める年配の男性から、いきなりの一喝未満を頂戴したのは、アルバイト初日のことでした。
作業を忘れ聞き入ってしまった『とある教え』は、少し離れた場所から、私の鼓膜に届いていました。
1980年春、私は人生初の履歴書を認め、きちんとした形でのアルバイトに臨んでいました。
今日では京阪神を中心に数多くの店舗を構える、誰もが知るスーパーマーケット。
自宅から徒歩圏内に本社屋兼店舗のビルが建設されると、当時の地元住民は興味津々でした。
「荷物搬入の短期バイトを募集しているぞ!」
中学時代からの友人の情報に飛びつき、緊張して臨んだ、人生初の採用面談。
さぞや厳しい審査が待っているのだろうと、それなりに身構えていたところ、
「中学高校と運動部で家も近いね …… 採用!」
ほんわかとした年配の男性の即決に拍子抜けしたことを、今、思い出しています。
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建設工事もいよいよ仕上げ段階、什器備品や食べ物以外の商品が、続々と運ばれてきます。
指示に従い黙々と所定の場所に運搬から積み上げる繰り返し。
普段使わない筋肉酷使で、さすがに2~3日目は全身の痛みが厄介でした。
一応進学校とされる公立高校をお情けで追い出され …… もとい卒業も、
「俺は進学も就職もしない!」
青二才なりに生き方を模索中のこのタイミング、このハードな労働に心地良さを覚えていました。
<接客担当の研修に耳ダンボ>
どうやら接客話法の実地訓練のようでした。
『ロール・プレイング(ロープレ)』なる用語も、その時点では知りませんでした。
運搬作業で往復する合間、途切れ途切れでしかチラ見できず、
「これから店内で働くことになる人も、色々と大変そうだな」
なんとなく興味を覚え、次第に意識がそちらに向いていきました。
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お客さまがお目当ての商品の売り場を訊ね、ご案内するシチュエーション?
2人1組が他の人たちの前で、即興の応酬を繰り返していました。
「お茶売場はどこですか?」
「こちらでございます。ご案内いたします」
ちょっと待った!
指導員がストップをかけ、その理由を説き始めました。
お茶にも色々あります。
お茶葉とペットボトルでは、陳列棚が離れています。
お客さまがどのようなお茶を求めているのか、案内前の確認が抜けてしまっていますね。
ほほう(素直に納得)。
「焼きそばが欲しいんですが」
「こちらでございます」
ちょっと待った!
カップ焼きそば、袋入り、店内で調理されたもの、それぞれ売り場が違います。
お客さまに無駄足と無駄な時間の浪費を強いる接客は、プロの仕事ではありません。
そうだよな(深く同意)。
「こちらの鉄火巻、あと10人前、ワサビ抜きで欲しいのですが……」
「かしこまりました」
ダメダメ!
その時点で食材が切れていたら?
寿司用のご飯が炊けていなかったら?
あるいはその日の最終便(搬入)終了後だったら?
それにアナタ自身だけで対応できることではありませんね?
二つ返事で安請け合いから、
「やっぱりできません」
これは接客として最も失礼な、あってはならないパターンです。
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この時点で私は、その場から動けませんでした。
指導員の話が続きます。
みなさんを見ていると、意識が指導員の私に向いてしまっています。
注意されぬよう、そつなくこなしたい気持ちが、凄く見えています。
お客さまのご機嫌を損ねぬよう、二つ返事は確かに無難な対応でしょう。
しかしながらそれは、無責任なその場しのぎにすぎません。
大切なのは、お客さまが『何を欲しているのか』を、しっかり傾聴から正しく把握すること。
勢いや思い込みだけで「はい!」「かしこまりました」は禁物です。
独断できなければ、少しお待ちいただくようにお詫びお願いから、上司先輩に必ず確認してください。
それから自分の担当分野だけでなく、店全体のことを、広く深く知る努力も大切です。
一朝一夕には無理ですが、少しずつ視野を広く持つことで、それは可能です。
お客さまからすれば、社長も新人のパートさんも、
「お店の人なのだから、すべてを熟知していて当然」
これが共通の心理です。
「あの店のあのスタッフは、何も知らないから、あの店全体がダメ」
思ったことはありませんか?
……(私が傾聴状態に)。
「こら!手を止めるな!」
ここで冒頭の叱責が届きました。
<今、あらためて思うこと>
無数にある実社会への扉、どの業種で開くのか、
それによってその後の社会人人生、少なからず影響するかと
私の場合、広義で販売小売業が、実質的な最初の職域でした。
『向き/不向き』の面でも、偶然の恵みだったと、これは確信しています。
直接諭されたわけではなく、いわゆる耳ダンボで学んだ、実社会の基礎の基礎。
業種を問わず共通する、たとえるなら実社会の座標軸の交点でしょう。
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傾聴姿勢?
あれから40数年、この教えをお裾分けしたい人たちが、数え切れませんでした。
悲しいかな私自身も、頭では理解しつつの『やらかし』を、懲りずに繰り返してきました。
それでも18の春に、仕事の神様が届けてくださったであろう、この教え。
無意識のなかで実践したことで『助かった』場面もまた、数え切れなかったに違いありません。
・傾聴
・相手の真意を洞察から正しく理解
・二つ返事は基本厳禁
ジャンルを問わず、すべての対人場面で求められる、基本中の基本でしょう。
#大切にしている教え
今回このテーマでの執筆を通じ、再確認させていただけました。
ご一読ありがとうございます。
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