013. カリブ島嶼国を襲う巨大ハリケーンから島民は護られた(2017年 アンティグア・バーブーダ)
プロローグ
アンティグア・バーブーダ国は面積440平方キロメートル(種子島とほぼ同じ)で人口9.4万人(2022年世界銀行調べ)の小さなカリブ海島嶼国のひとつである。妹島にあたるバーブーダ島は海産物、特にロブスターの産出量が多く、小ぶりながら美味しいと評判だが、先進国輸出用の適切な加工をする施設がなかったため、JICA・相手国水産局をクライアントとして、私の前職:コーエイリサーチ&コンサルティングにて2008年から調査、設計、監理した「バーブーダ島零細漁業施設が2011年7月に竣工した。
2,ハリケーン・イルマの来襲
2017年9月8日に同島を襲ったハリケーン・イルマは同島上陸当時瞬間最大風速82m/sというすさまじいもので、キューバでは、あまりの強風により現地気象観測所の観測機器が破壊されたという。イルマの直撃を受けたアンティグア・バーブーダでは子供1人の死者が発生しているほか、バーブーダ島全域が冠水、建造物95%に何らかの被害を受けての「ほぼ居住不可能」が報じられたが、本施設は唯一災害を免れ公共施設であった。
ハリケーンが猛威を振るっている間、同施設は島民の避難シェルター兼宿泊施設として使用され、ハリケーンが去った後は救援物資の搬入港兼倉庫、島民約1,500人のアンティグア本島への引き揚げ港、また現在はバーブーダ島復興の拠点・指令センターとなり警察、軍の駐屯地として使用されていた。
3. 何故、ハリケーン・イルマから防災できたのか
カリブ海や大洋州におけるハリケーン被害の教訓から、高潮の影響を受けにくいラグーン内という立地、建物グランドレベルの設定高さ、およびハリケーン時の風速を考慮した構造設計等防災計画を徹底したことが「島民のシェルター」として使用された結果に繋がった。
別国の支援で同島に公民館が建てられていたが、天井が内部から付き破られてていたため、同島の避難施設としては使われていなかった(筆者が2017年9月末に訪問時の状況)。
施設そのものは鉄筋コンクリート造で堅牢に造られていたのだが、ガラス窓すべてが割れて風が室内に乱入、天井を突き破ったのだ。そのすさまじさは状況をみないと理解できないが、本施設との違いは、全ての窓にハリケーンシャッター(日本の雨戸)を入れたか入れなかったかである。
4. 復興のお手伝い
電気や水道の復旧工事が着手できない中、水洗便所やシャワーを雨水利用も出来るように配慮したこと、自家発電機を利用して天井扇風機や電灯を利用できること等が奏功して、駐屯されている警察官や軍の関係者が気持ちよく使っておられた。漁獲される鮮魚の流通・保管のための冷蔵庫・製氷機も問題なく使用できる状態で、同島復興のシンボルとして同施設の使用再開が復興1年後に始まった。
2017年9月、筆者は別案件でカリブを訪問中であったため、アンティグア・バーブーダに陣中見舞いに訪れたのだが、施主である水産局長にとても感謝された。同施設建設にかかわったものとして、建築家冥利につきる思い出である。
5, エピローグ
同施設は開発コンサルタントとしての私の2人の恩師:水産事業開発コンサルタント:富山さんと、ODA建築コンサルタント:渡邊さんをチーフコンサルタントとして、企画・計画された施設である。当時の私は、まだODA業界の2年生であり、右も左もわかるぬまま、常駐監理(建築)として入ったのだが、常駐監理責任者の田保さんにODA業界建設現場のイロハを教えていただいたことは、2022年末に竣工、2023年9月9日開所式となったコンゴ民国柔道スポーツセンターへと引き継がれる。
建築、特に公共建築は、時間がかかるため、それぞれに不断の創意工夫をつぎ込んでこそ受け取る側に理解していただける、とても息の長い仕事だが、ODA事業は企画から入り、設計・監理、施設の引き渡し、施設管理スタッフの訓練まで一貫して見ることができるからこそのやりがいがある。
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