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「コンセプト」ってそもそも何? 明日から使える定義と設計プロセス

クリエイティブの現場で多用されるビッグワード「コンセプト」。
抽象度が非常に高い概念で、わかっているようでわかっていない言葉の代表格でもあります。

アクアリングでは現在、自社のコンテンツファーストのサイト設計プロセスをアップデート中で、「コンセプト」の理解と適用方法について再度議論しています。

そこで、新規事業・サービス開発のプロ集団「NEWh」のサービスデザイナーで、当社のサービスデザイン顧問でもある今村健さんをゲストにお招きし「そもそもコンセプトって何だろう?」をテーマに、社内セミナーを開催しました。

株式会社NEWh エクゼクティブディレクター/サービスデザイナー今村健 │ Ken Imamura

福岡県出身。名古屋市立大学、九州大学大学院を卒業後、日立製作所にてUI/UXデザイナーとしてキャリアをスタート。デザインコンサルティング会社にてdocomo「しゃべってコンシェル」「iコンシェル」などのAIエージェントサービス開発を一貫して支援し、大手製造メーカーでは独自のデザイン思考を活用した新規事業開発支援やベンチャー企業のデザイン組織立ち上げなどに携わる。2022年からNEWhに参画し、サービスデザイナーとして新規事業開発支援を行う。
UXデザイナーとしてグッドデザイン賞を3度受賞。


アクアリング6階の大会議室に集まったのは、「コンセプトとは何か」をそれぞれの視点で考えているディレクターやデザイナーなど約30名。

「ビッグワードである“コンセプト”の概念を、プロジェクトの現場で共通言語として機能できるように、構造的に理解する」をゴールに、定義から実践までギュッと詰まった盛りだくさんの内容です!



コンセプトという概念の難しさ

「コンセプト」について、概念の説明が得意な生成AIに訊ねると「物事の本質や目標を明確に示す、独自性がある一貫したテーマや方向性で、意思決定の基準となる」といった回答が得られます。

また、社会学者タルコット・パーソンズによると「サーチライトで照らした事象の背景にあり、その事象の本質を特徴づける、簡単には変化しないもの」がコンセプトの概念です。

コンセプトの概念

まだまだ難しいですね。

今村さんがコンセプトの概念を知ったのは、学生時代だったそうです。それは、MITメディアラボの石井裕教授が提唱した、デジタル情報を物理的に操作・体験できるようにする直感的なインターフェースのコンセプト「Tangible Bits(タンジブル・ビット)」でした。
tangibleとは、物理的に触れることができる・確実な・現実の、という意味の英単語です。
Tangible Bitsを和訳すれば「情報にカタチと意味を与え、身体的に触れる、感じる」という意味になります。このインターフェースの代表例に、栓を抜くと音楽が流れる「Music Bottles」があります。

今村さんはコンセプトの理解が難しい理由が2つあると話します。

「1つ目は、見ようとしないと認識できないことです。コンセプトとは、商品やサービスの裏にある意味であり目的です」
誰しも、製品やサービスの技術や仕組みといった表層に目が行きがちなものです。「Music Bottles」を目にして、「情報にカタチと意味を与え、身体的に触れる、感じる」を意味するTangible Bitsというコンセプトに到達するのはたしかに難しいですね。 

「2つ目は、切り口が多様で、正確に意思疎通できないことです」
事業コンセプト、アイディアコンセプト、マーケティングコンセプトなど、どの切り口でのコンセプトの話をしているのかわかりにくいため、共通言語化しにくいのです」 

クライアントワークでコンセプトを語るとき、「なんだか、話が食い違うな……」と感じた経験がある人もいるでしょう。その原因はこの2点にあったのです。


競争戦略論から事業コンセプトを紐解く

この、難解なコンセプトの概念を、現実のクライアントワークにどう落とし込んでいけばいいのでしょうか。

今村さんは「競争戦略論」の視点から、まず事業コンセプトについて理解するのが最もシンプルだと話します。

競争戦略論の立場では、企業が追究すべき究極のテーマは「長期利益を生み出す」ことだと定義されているのだそうです。

「長期利益が生み出せる会社は、サービスがアップデートして顧客が増えます。従業員もやりがいが持って働くことができ、成長を見込んで株主も投資します。長期利益を生み出すとは、この好循環を目指すことです。
利益を生むためにコストだけ減らすと価格競争に陥ります。そのため、他社に真似できない持続的な価値軸=顧客価値を持つことが長期利益を生むポイントです。この顧客価値が事業コンセプトです」
利益を生むためにコストだけ減らすと価格競争に陥ります。そのため、他社に真似できない持続的な価値軸=顧客価値を持つことが長期利益を生むポイントです。この顧客価値が事業コンセプトです。

今村さんは、Amazonを例に挙げました。初期のAmazonは商品のレビュー機能を実装し、顧客価値を「購買の意思決定の支援」に置いたことが、他のECサイトとは一線を画していました。
つまり、Amazonが本質的に販売していたのは「本」ではなく「購買の意思決定の支援」です。

「同様に、スターバックスが提供しているのは『コーヒー』ではなく、自宅でも職場でもない、第3のリラックスできる場所、『サード・プレイス』です。一方、同じコーヒー店でも、コメダ珈琲が提供しているのは自分の家の延長線上でくつろげる『街のリビングルーム』というコンセプトです」

競争戦略論における”コンセプト=顧客価値”

このように、競争戦略論における事業コンセプトとは、顧客価値―「本当のところ、誰にどんな価値を提供しているのか」ということが明らかになりました。

競争戦略論における事業コンセプトについてもっと詳しく学びたい方は、「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件(楠木建 著)」を読んでみてください。とても面白い本です。


コンセプトの3つのレイヤー

競争戦略論によって「本当のところ、誰にどんな価値を提供しているのか」という事業コンセプトの概念がぐっと身近になりました。

続いて、企業コンセプト、事業コンセプト、デザインコンセプトの3つのレイヤーに分けて構造的に捉えていきます。

コンセプトの構造:3つのレイヤーで考える

「3つのコンセプトに必須なのが一貫性です」と今村さん。「企業→事業→デザインのロジックを語ることができれば、コンセプトの定義に困ることはなくなるでしょう」

まず、企業コンセプトと事業コンセプトの一貫性を示す企業例をご紹介いただきました。たしかに、多くの事業体を抱える大企業では、企業全体としてどんな顧客価値を提供しているのかがわかりにくいことがあります。

「コニカミノルタは元々はフィルムの会社です。現在では複合印刷機から医療機器、プラネタリウムまで事業は多岐にわたります。同社では、材料・光学・画像・微細加工といったコア技術に裏打ちされた事業群と一貫する企業コンセプトを『人々の"みたい"に応える』と定義しました。
対して、計測器メーカーのタニタは、企業コンセプトを『健康をはかる』から『健康をつくる』へと転換したことで、タニタ食堂をはじめとした新事業を拡大しています」

また、Amazonの事業コンセプトが「購買の意思決定の支援」だったのに対して、同じECサイトでも、楽天市場は「楽しいショッピング体験」です。巨大な自動販売機ではなく、コミュニケーション体験が得られる町の商店街をインターネット上に復活させたいという明確な目的があります。

このように、事業コンセプトが明確であれば、サービスとしてあるべき機能やトーン&マナーといったデザインコンセプトはおのずと導かれていくとのことでした。その例に挙げられたのはユニクロです。

「ユニクロの事業コンセプトは『究極の普段着(LifeWare)』です。その価値を最大化するためのデザインコンセプトでありブランディングでもあるキーワードが『美意識ある超合理性』でした。
このデザインコンセプトがあるからこそ、デザインから陳列、ロゴ制作に至るまで、効果的に本質的な提供価値をお客様に伝えられるブランドの世界観をデザインすることができるのです」


デザインコンセプトを言語化するストーリー共創

実際の現場では「クライアント自身が事業コンセプトを言語化できていない」ケースがよくあります。

そこからどうやって本質的な顧客価値(「本当のところ、誰にどんな価値を提供しているのか」)を探っていくか。

今村さんは、顧客体験のシナリオを複数人で作成してデザインコンセプトを決定し、その過程で事業コンセプトを発掘するというストーリー共創という手法を教えてくれました。

「まずペルソナを設定し、そのペルソナがサービスを体験する過程のシナリオを、クライアントを含めた5~6人でそれぞれ作成します。行動はもちろん、感情や思考まで事細かにイメージして言語化し、ムービーが作れるくらい具体的で生き生きとしたストーリーにしたシナリオです。非常に細かいカスタマージャーニーと言ってもいいでしょう」

ストーリーの共創:複眼思考

このシナリオをサービスデザイナーが1本のシナリオに統合・編集して顧客体験ストーリーを完成させるのがストーリー共創です。人によって着眼点が違うため、思いもよらない発見が出てくるのだそう。
この過程で事業そのものの解像度が上がり、事業コンセプトの言語化のヒントが見つかると、今村さんは話します。


最後に、アクアリングのwebサイトリニューアルをテーマに、デザインコンセプトを考えるペアワークを行い、社内セミナーは幕を閉じました。

コンセプトワークショップシート

UX/UIデザイン、サービスデザイン、デザイン思考、新規事業開発と多様な得意領域を持つ今村さんならではの切り口と豊富な実例で、90分とは思えないほどの濃密な時間となりました。



アクアリングでは、ディレクター、デザイナー、エンジニアの「?」を「!」に変える社内セミナーを定期的に開催しています。

また、社外の方にもご参加いただけるセミナーの開催も予定しております。
この記事を読まれた名古屋エリアにお住まいのディレクター、デザイナー、エンジニアの皆様、セミナーの詳細や申込方法など随時SNSにて発信してまいりますので、ぜひこの機会にアクアリングのnote・SNSアカウントフォローをよろしくお願いいたします!


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