《奇妙な短編物語》欲のやまない砂時計 #3
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店内に入ると薄暗い。
「いらっしゃいませ。お好きなテーブルをご利用くださいませ」
と、穏やかな口調でカウンター内にいる白髪の多い高齢男性がこちらに声をかけてきた。この人物に抱くイメージは、雰囲気の良いバーのバーテンダー、もしくは執事。
「それでは。奥のテーブルを」
千笠が店内の奥に進んで行く。俺はゆっくりと扉を閉めると、急に日が暮れたように店内の薄暗さとコーヒーの香りが色を深めて、空気が重く感じた。
ほかに客はいない。
座ろうとしているのは、手前と奥にソファーが置かれている席で、千笠は奥側に腰を落とした。
俺は手前側にある一人用のソファーに対面で座る。背もたれが高く、ひじ掛けに腕を置くと落ち着く。外の寒さが嘘だったみたいにゆったりと過ごせそうだ。
天を仰ぎ、目をつぶると、店内の温かさも合わさって、しんどかった体を癒す。首の位置で背もたれが切れている構造はポイントが高い。
「選ぶか」
言葉少なめに言う千笠の手元にはメニューがあった。
マフラーとコートを脱ぎながら卓上に置かれているもう一枚のメニューに目線を向ける。
「ご注文はお決まりでしょうか」
足音も無くテーブル横に立つ人物がいた。
千笠は、急に現れた店主に小さく体を震わせていたが
「私にはブレンドのホットをください」
すぐに涼しい顔をして注文し、俺は
「ダージリンティーのホットをミルク無しでひとつお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
注文を済ますと、店主はメニューを回収してカウンターに消えていった。
「そんなメニューあったか?」
千笠が小声で首を傾げていた。
「それにしても、よく知っていたな。こんな雰囲気の良い店」
「あ?あぁ。私も、来たのは初めてなんだが、知人に教えてもらったんだ」
「知人・・・ね」
千笠はうつむき、そこで話はドリンクが届くまで進むことはなかった。
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「お待たせいたしました。砂が全て落ちたらお飲みください。それではごゆっくりと」
店主はそう言うと戻っていった。
俺の前には紅茶が入ったティーポットとティーカップ、千笠の前にも中身がコーヒーのティーポットとマグカップ。それと、それぞれのティーポット横には"砂時計"が一個づつ置かれた。
俺の前に砂時計を置かれたのは何となく茶葉の開くタイミングなのだろうと予想出来るが、コーヒーは居るのか?それにティーポットに入れているのは珍しい。
そんなことを思っていると
「才能が欲しい」
その言葉を、視線を落としたままの千笠が口にした。
つづく
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