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《奇妙な短編物語》欲のやまない砂時計 #1

-1-

「才能が欲しい」
 目の前に座る男は言った。
 店内を満たすのはコーヒーの良い香りと、ラジオから流れる一昔流行ったバラード調のインストメンタルミュージック。

 テーブルは四卓のみでいずれも二人席。カウンターがあり、内側にははっきりと顔が見えない店主がいるだけで付属する椅子は無い。
 足元の照明と、テーブル上のロウソクが効いてて席に座ることは出来たが、昼間だというのに狭い店内の端から端までの距離感が掴めないぐらいの薄暗さ。
 俺達は今喫茶店に居て、完成する飲み物を待っていた。

千笠せんがさ。君は才能を持っているじゃないか」

 俺は目の前に座る男、千笠せんがさ 流間るげんへ言葉を投げた。
 千笠 流間という名は仕事で使っている名前で、本名は千笠ちがさ とおる。本名の名字は発音を”ちがさ”と呼ぶが、読み方を変えて”せんがさ”。本人からは”せんがさ”のほうで呼んでくれと言われている。

「私には・・・」

 言葉に詰まる千笠。テーブル上にある光源に照らされたその顔は、悲しそうな表情をしている。

-2-

 喫茶店へ訪れた経緯は、3日前に受け取った

〈話がしたい。時間あるか?〉

のメッセージで始まった。
 千笠から連絡?何年振りだ。
 親父が生きていた頃はよく家に来ていたが、最後に会ったのは・・・、そうだ。3か月前に執り行われた親父の葬式だ。

〈良いよ。もう少しで書き終わるから。木曜はどう?〉

と、俺が返事を返すとすぐさま

〈ありがとう。それじゃあ、木曜の14時に○○駅の北口まで来てくれるか?〉

と返ってきた。10秒ほどで返ってきたことに驚いたのだが、それだけ重要な話なのだろうか?それに○○駅の北口?千笠が○○駅に誘ってくれるなんて・・・。

-3-

 千笠との出会いは20年前ぐらいだろうか。
 その日は高校の部活で帰りが遅く、俺が自宅に着いたときは夜の8時過ぎ。疲れた体で玄関の扉を開けると、すぐその場に学ランを着た千笠が親父に頭を下げる姿があった。なにごと?と親父に聞くと、弟子入りしたいそうだと言われた。
 親父の職業は小説家で、人気作家としてやっている。今どき作家への弟子入りなんてするのだろうか?と、その時は思った。
 親父は弟子など取ったことないから無理だと言ってるが、彼は引かない。
 千笠は帰ってきた俺のことなど気にもせず、親父に頭を下げていたので、俺もそれ以上は気にせず家に入り、風呂に入った。風呂から上がると動きがあったようで、千笠は居なくなっている。
 どうなったのか親父に聞くと、「また、来るそうだ」と言いながら怪訝な顔をした。
 それからは毎日、親父が折れるまで家で頭を下げる千笠を見ることとなった。

つづく

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