眼科症例報告:進行性網膜変性を疑う犬1例
はじめに
高齢の犬では目が白くなっている子が多いです。白内障であれば手術して見えるようにしてあげることができますが、その他に病気がある場合は手術をしても視力の回復が見込めない場合もあります。
今回は、白内障の手術を希望されて来院されましたが、進行性網膜変性が疑われ、白内障の手術の実施を慎重に判断せざるおえなくなった症例を紹介します。
進行性の網膜疾患があっても、白内障手術後1年ほどはよく見えるようになる患者さんは多いです。目が見える1年ほどの期間をどのように考えるかは飼い主さんによって変わりますので、手術を行うかどうかを決定するのは飼い主さんの価値観によって変わります。
稟告
13歳2ヶ月、不妊メス、ミニチュアダックスフント
1年ほど前から両目が白くなっていた。
2、3ヶ月前から見えづらく、物にぶつかるようになった。
検査所見
視機能検査所見は以下の通り
院内歩様検査
明室 広い空間を選んで歩くが、ものにぶつかる
暗室 広い空間を選んで歩くが、ものにぶつかる
威嚇反射 -/+
眩目反射(光量5)-/-
対光反射
直接(光量5)+/+
間接(光量5)+/+
両眼ともに眼瞼角膜に特記所見はなかった。
水晶体の所見は以下の通り
同心円状混濁、前嚢下皮質中央部混濁、後嚢下皮質中央部混濁、後嚢描出可能/同右
眼底所見は以下の通り
視神経乳頭部 不整円形、血管狭小化/不整円形、陥凹、血管狭小
タペタム部 反射亢進、血管狭小/同右
ノンタペタム部 放射状オレンジ色/同右
網膜電図検査の所見は以下の通り
頻回刺激錐体応答 subnormal/subnormal (amplitude 20.5 mV/21.3mV, latency 34.3mS/34.3mS)
単回刺激錐体桿体混合応答 non recordable/non recordable (暗順応 1分)
診断
>診断
確定
両眼 白内障、睫毛重生
疑い
両眼 進行性網膜変性症
>視機能
光覚 中等度の障害あり/中等度の障害あり
形態覚 中等度の障害あり/中等度の障害あり
>加療計画
白内障、網膜変性症:両眼ともに後嚢描出可能な未熟白内障である。水晶体関連ぶどう膜炎の予防は現時点で必要ない。白内障による視機能への影響は限定的であるため、ものにぶつかるといった形態覚の障害は網膜の影響が大きいと考えられる。網膜は視神経乳頭の陥凹、血管の狭小、タペタムの反射亢進などは進行性網膜変性症を疑わせる。水晶体再建術による視機能の明確な改善は見込まれないため、手術適応はないと判断した。成熟白内障への進行を予防するために、近医で処方されたピレノキシンを継続していただく。
睫毛重生:上眼瞼に複数のマイボーム腺開口部からの睫毛が見られた。現段階では角膜に障害は見られていないため、今回は無治療とした。
>治療
両眼 ピレノキシン点眼 継続