眼科症例報告:白内障と網膜疾患を疑う犬1例
はじめに
白内障で水晶体が白くなると、ものの形が分からなくなります。動物では本を読んだり車を運転することはないため、人よりも白内障が進行した段階で問題が発生します。特に両眼共に成熟白内障以降まで進行するとものにぶつかるようになり、生活に支障が出ることになります。
動物の白内障も人と同じように手術により視機能を回復させることが可能ですが、眼内の透見ができないために網膜疾患を見逃すと手術をしたにもかかわらず、視機能が回復しないことがあります。
今回は比較的若齢で白内障を発症したため、手術を希望して来院されましたが、先天性の網膜疾患が疑われた症例の報告をします。
現病歴
6歳3か月、トイプードル、去勢オス
歯周病のため、スケーリングと抜歯を1回実施している。
左眼は1か月前からいつもより眼の光の反射がおかしく感じた。しょぼつきがあり、充血しているとのこと。
近医にて白内障と診断され、ライトクリーン1日2-3回の処方を受けた。
右眼は白内障がありそうとの指摘を受けた。左眼と同様にライトクリーンの点眼をしている。
ものにぶつかることはないとのこと。
検査所見
視機能検査では左眼で威嚇反射が陰性で、眩目反射は右眼比で弱いことがわかりました。
威嚇反射 +/-
眩目反射(光量5) +/+右眼比で弱い
対光反射
直接(光量5) +/+
間接(光量5) +/+
スリットランプ検査では、両眼の水晶体に異常がみられました。
水晶体 前嚢下皮質上方不整混濁、後嚢下皮質上方不整混濁、後嚢描出可能/Y字縫合、前嚢下皮質不整混濁、後嚢描出不可能
網膜電図検査では左眼がnon recordableで網膜機能が低下していることが分かりました。
網膜電図検査
頻回刺激錐体応答 normal/non-recordable (amplitude 90.0mV/mV, latency 21.3mS/mS)
単回刺激錐体桿体混合応答 normal/non-recordable (暗順応 1分)
診断
>診断
確定
両眼 白内障
左眼 網膜異常
疑い
左眼 先天性網膜疾患
>視機能
光覚 障害なし/重度の障害あり
形態覚 障害なし/重度の障害あり
>加療計画
両眼 白内障:右眼は後嚢描出可能な未熟白内障、左眼は後嚢描出不可能な成熟白内障と診断した。左眼は眩目反射への応答が弱く、網膜電図検査でnon-recordableであった。現在6歳と比較的若齢であり、先天的な網膜異常が疑われる。視機能を回復させる目的での水晶体再建術の適応にはならないと考えられる。右眼はまだ視機能を維持しているが、左眼と同様の状態まで急速に進行する可能性も考えられる。1ヶ月後に進行の程度を診させていただく。左眼は水晶体関連ぶどう膜炎の予防を開始する。また、両眼の進行予防として近医で処方されたライトクリーンを継続する。
>治療
両眼 ピレノキシン点眼剤 1日3回継続
左眼 ジクロフェナクナトリウム点眼液 2日に1回