「好きと得意はちがう?HSPが仕事選びで大事にしたいポイント」
「好きなこと」と「得意なこと」って、似ているようで実は違う――そんな違和感を抱えながら仕事を探しているHSP(Highly Sensitive Person)の方は意外と多いんじゃないでしょうか。
たとえば料理が好きだけど、プロとして調理の現場に入ったらスピードや臨機応変な対応にストレスを感じてしまうかもしれない。逆に書類整理は得意でミスなくこなせても、「本当はこんな単調作業、好きじゃないんだよね……」と物足りなさを抱えることもある。
今回はそんな、“好き”と“得意”のはざまで揺れるHSPさんに向けて、仕事選びで大切にしたいポイントをお伝えしていきます。興味や情熱、スキル、働きやすい環境――さまざまな要素を総合的に見極めるコツを、一緒に考えてみましょう。
1. 「好き」と「得意」が一致しないのは自然なこと
私たちはよく「好きなことを仕事にしよう」と言われますが、現実はそんな単純じゃないですよね。音楽が好きだけど、プロミュージシャンのようにステージでパフォーマンスするのは苦手……なんて人もいるでしょう。
“好き”:主観的な感情で、「これをしていると楽しい」「わくわくする」といったポジティブな気持ち
“得意”:自分の能力やスキル的に「そこそこ上手にこなせる」「人よりミスが少ない」など客観的に得意な分野
この二つがピタリと重なる人もいれば、あまり重ならない人もいます。HSPさんは特に「好きなことでも、ペースを乱されるとしんどい」とか「得意だけど、興味を持てないとモチベーションが上がらない」というジレンマを抱えがち。そこで大事なのは、「好き=得意」と思い込まず、両方の特性を分けて考えることなんです。
2. “仕事の軸”を考えるときは「働きやすさ」も重要
HSPさんにとっては、「好き」や「得意」と同じくらい大事なのが“働きやすい環境”です。なぜなら、どんなに好きなことでも、刺激が強すぎたり、過度なストレス環境だと長続きしないから。
騒音や人混みが苦手な場合
大きなオフィスやにぎやかな接客業より、静かな作業環境や在宅ワークのほうが適しているかもしれません。急な変化や無茶なスケジュールが苦手な場合
スタートアップ企業のようにスピード感を求められるより、一定のペースで仕事が回る組織や業種のほうが安心して働けます。対人関係のきめ細やかな気遣いが得意だけど、過度なコミュニケーションは疲れる
組織全体のサポート役として裏方で動く仕事のほうが実力を発揮しやすい、など。
自分に合う環境が整っていれば、たとえ得意な分野と少しズレていても、意外と“好き”が育っていくことだってあるんです。
3. 「できる」と「やりたい」は別もの
HSPさんの中には、周囲の期待に応えるのが上手なあまり「私、この業務、得意みたい……」と勘違いしがちなケースがあります。確かに仕事として成果を出せるかもしれないけれど、内心「本当はやりたくない」「気づかれでボロボロ……」なんてことも。
ここで大切なのは、「できること」と「やりたいこと」を区別すること。哲学者のキルケゴールは、“絶望”にはさまざまな形があると語りましたが、その一つに「本当にやりたいことを見失う絶望」も含まれるかもしれません。
人から「これ上手だね」と褒められて続けてきたけど、実はそこに情熱がわかなかった…
得意だけどやりたくない仕事を続けていたら、いつの間にか燃え尽き状態に…
こういう状況に陥ったとき、「得意≠やりたい」を見極められる眼があると、自分の苦しさに早めに気づけます。得意なことでキャリアを積むのは悪い選択肢じゃないけど、それが自分の心に“OK”を出せるかどうかは、しっかり確認しておきましょう。
4. “小さなワクワク”を手がかりにする
「好き」を探そうとしても、「やりたいことが思いつかない」「特別な才能なんてない」という人もいるでしょう。でも、実はそれほど大きく構えなくてもいいんです。どこかで感じる“ちょっとしたワクワク”が、意外と仕事選びのカギになったりします。
データ集計や分析が、なんだか落ち着く
書類のレイアウトや配色を考えるのが好き
人の話を聞いていると「相手の困っている部分」に気づいて手助けしたくなる
こうした“ワクワク”や“ついやってしまう”感覚は、心理学では「フロー体験」とも関連しています。どんな些細なことでも「時間を忘れちゃうくらい、そこに没頭できる」なら、それは**“好き”の芽**かもしれません。
5. 情熱の炎を煽りすぎない―ほどほどでOK
一方、「好きなことがあるけど、それを仕事にすると嫌いになるかも…」と不安になるケースもあります。たとえば音楽好きな人が、音楽関係の仕事に就いたら競争やノルマでしんどくなったり、大好きだった曲もノイズに思えてくるという話は珍しくありません。
こうした悩みには、“好き”にほどほどの温度を保つという工夫が有効です。心理学者のカール・ユングは、人間の心には「意識」と「無意識」のバランスが大切だと説きました。あまり意識(理性)で熱心に「これを仕事にしなきゃ!」と煽りすぎると、無意識下の自由な感性が窮屈になり、逆に好きが冷めてしまうことがあるんです。
好きなことを仕事にするときは、**「これ、ちょっと楽しいと思えるからやってみよう」「でも、あまり燃え尽きないようペースは大切に」**くらいの意識で挑むほうが、長続きすることも多いですよ。
6. 自分の疲れやすさを把握しておく
HSPさんにとって、“疲れにくさ”も仕事選びでは重要なポイントになります。「好きだから疲れないだろう」と考えてしまいがちですが、好きでも疲れるときは疲れます。
体力面:立ち仕事や不規則シフトだと体がもたない、など。
精神面:人混みや騒音でエネルギー消耗が激しい、短い納期の連続がきつい、など。
好きなことなら頑張れるかも、と思う一方、「一日中人と話す仕事」は実は想像以上に疲労が溜まるかもしれない。あるいは逆に、「たとえ得意分野じゃなくても静かで落ち着いた環境なら意外とイケる」という発見があるかもしれません。事前に自分の疲れトリガーをチェックしておくと、職場選びに失敗しにくくなります。
7. “環境調整”の余地があるかどうか
どんなに好きで得意な領域でも、職場や仕事内容を自分で調整できるかどうかで、HSPさんの働きやすさは変わります。たとえば、
在宅勤務が可能:オフィスの喧騒が苦手なら週何日かリモートワークにするなど柔軟性があるか
スケジュール管理が自由:自分のペースで休憩を取れるか、突発的な対応が少ないか
人間関係の距離感:上司や同僚とのコミュニケーションスタイルが合っているか
こうした「自分の敏感さに合わせた微調整」が効くかどうかで、同じ“好きな仕事”でも負担の大きさはまるで変わってきます。面接や説明会の段階で、そうした柔軟性があるのかを見極めるのは大切ですね。
8. 「やりたくない仕事」から学ぶこともある
好きじゃないから、得意じゃないからといって、すべて避けていたら意外と自分の可能性を狭めてしまうことも。フランスの哲学者・シモーヌ・ヴェイユは、労働や苦労を通じて人は思わぬ発見をすることがあると述べました。
得意どころか苦手だと思っていたけど、やってみたら意外に面白かった
面倒な雑務を経験したからこそ、「自分はクリエイティブな仕事のほうが向いている」と確信できた
“嫌い”や“苦手”を少しだけ試してみるのは、自分の輪郭をよりはっきりさせるチャンスでもあります。「とにかく逃げる」か「苦手でも続ける」かの二択ではなく、少しだけ触れてみて判断するというプロセスが大切なんです。
9. 仕事以外の場所で“好き”をキープする選択もあり
また、何も「好きなことは仕事にしなきゃダメ」なんてルールはありません。HSPさんの中には、「好きだけど仕事にしたくない」「あくまで趣味で大事にしたい」というスタンスをとる人もいます。
平日の仕事は“得意なこと”重視にして、休日に“好き”を存分に楽しむ
仕事で疲れた心を、趣味という“好き”で癒やすサイクルを作る
こうした働き方もまったくアリなんですよね。むしろ、“好き”を趣味として楽しむほうが、自由度が高く続けやすいケースもたくさんあります。好きと得意が交わらなかったとしても、上手に両立できる道は探せるはずです。
10. 最終的には「自分が納得できるかどうか」
仕事選びで大事にしたいのは、最終的に**「私はこの選択で納得できるか?」という問いです。好きだけど稼げない、得意だけど好きじゃない、いろんな組み合わせがあるなかで、結局は「自分が心地よいと思えるライン」**を見つけることが一番のポイント。
収入面とのバランス
ストレスとのバランス
将来のビジョンやライフスタイルとのバランス
HSPさんの場合、強烈なストレス環境であっても「いや、ここは我慢すべきだ」と思い込むと体や心が限界を超えやすいので気をつけましょう。あくまで**「これなら自分が続けていける」**と思える選択かどうかを軸にするのが大切です。
まとめ:“好き”と“得意”を超えて、自分のペースで生きる
「好きと得意はちがう」というのは、ある意味当たり前のこと。むしろHSPさんほど、そこに伴うギャップやジレンマを強く感じやすいかもしれません。でも、その違いをネガティブにとらえる必要はないんですよね。
好きなことを軸にするのか
得意なことを軸にするのか
両方を少しずつ組み合わせるのか
仕事は得意を使って、趣味で好きなことを発散するのか
答えは人それぞれ。大事なのは、“どんな選択肢もアリなんだ”という視点を持つことです。自分の敏感さを理解しながら、働きやすい環境ややり方を調整すれば、好きと得意の両方を活かす道はきっと見つかる。
焦らず、肩の力を抜きながら、「私がこれなら納得できる」「私に合うリズムかも」という職場や働き方を見極めてみてくださいね。あなたの繊細な感性は、仕事においても絶対に武器になるはずです。気長に、自分と対話しながら歩んでいきましょう。