話が頭に入ってこないのには訳がある
コミュニケーションの主導権は受け手にある。と以前のコラムでも書きました。
どんなに話し手が、わかりやすく話したとしても、受け手が理解できなければコミュニケ-ションは成立しません。
野球に例えれば、三塁手が一塁手に素晴らしい送球をしても一塁手がエラーをしてしまったら、ヒットと同じです。
仕事のコミュニケーションでも受け手の取り方によって大変なことが起きています。
「10日前に頼んでおいた提案書の準備は明日までにできるか?」と部長が確認をすると、
「え?!来週ではなかったですか?明日ですか?」と部下は青ざめていました。
部下だけではなく部長はそれ以上に青ざめて、「こんなことがあって困っています」と相談にいらっしゃったのです。
どれだけ正確に部長が必要な情報を正確に発信しても、聞き手が正確に理解しなければコミュニケーションは成立しません。
聞き手が理解できないのは、上司から部下への指示・確認だけでなく、部下から上司への報告や相談の場面でもよくあることです。
ではなぜ、聞き手は話し手の声が耳に届いていたのにもかかわらず、話の内容を理解できなかったのでしょうか?
その理由は大きく分けて3つあります。
その1.関心がなかった
こんな経験はありませんか?
ベンツを買おうと考えているときに、ふと道路を眺めていると走りすぎるベンツは注意深く、色や形式などもしっかりチェックしています。
そのため「今日は、やたらベンツが多く走ってるなあ」と感じるのです。
しかし、実際はそんなことはなく、ベンツ以外の車種は見ているようで見ていないため記憶に残っていないからです。
これと同じことが、聞く事についてもあるのです。
この人の話は意味がないなあ、この会議はつまらないなあと、で思ってしまえば、声は耳に入ってきていても、話の内容を覚えていません。
人間誰しも興味のあることは注意をして見聞きしますが、関心のないことに対しては頭に入っていきません。
その2.別のことを考えていた
今朝出がけに妻とケンカをしてしまったために、それが気になって、どうやって仲直りをしようかと考えていれば、そのことで頭の中は一杯になっています。
昼前になると、今日は何を食べようかなど、話とは全く別のことを考えていると、耳栓をしていることと変わりがなくなります。
これらは自問自答であり、自分自身と対話をすることから内部対話とよんでいます。ある説によれば、人は1日約3万回も内部対話をしているのだとか。
気になることがあれば、意識はそこに集中してしまうので、話が頭に入ってこないのです。
人間の脳は同時に2つのことを処理できません。
内部対話をしていれば、他人の話を理解することはできないのです。
その3.聞き手の思い込みで判断する
これは話し手と同じで、「話し手も知っているだろう、知っているはずだ」という思い込みを持って聞くためです。
「あなたの話はなぜ伝わらないのか?」では書かなかったのですが、単語1つとっても人によって違う発想をします。
「すこし時間を下さい」と聞いたときに、「すこし」とは、どれくらいの時間を想像するでしょか?
ある人は5分でしょうし、またある人は15分と思うでしょう。状況によっては数時間と考えることもあります。
これを相手もきっとそう思っているだろうと、思いこんで話を聞いてしまえば、意志の疎通は図れません。
思い込みは、その人の価値観でもあります。
それらは、今まで生きてきた教育や経験によって作られるので、人それぞれ違います。
まずは、自分の思い込みや価値観を知り、人の価値観は違うんだということを理解していないと、コミュニケーションはよくなりません。
話し方の勉強やトレーニングをする機会はありますが、聞き方のトレーニングをすることはあまりありません。
こんなときには、まずコミュニケーションの基本である。傾聴のトレーニングをすることです。傾聴することができれば、話す手も話しやすくなって、コミュニケーションの質はグーンとアップします。
そして、傾聴をする際には、自分の思い込みや価値観を封印しておくことが最大のポイントになります。
よい聞き手は、よい話し手にもなれるのです。