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10年経っても十三機兵防衛圏を忘れないと思う

ネタバレ無し雑記。

ADVゲームに対して「ストーリーが良かった」と評価するのは少し気が引ける。それは言わば、信号でちゃんと止まる車だし、お湯が沸く電気ケトルだし、要は当たり前のことだからだ。逆に、そうじゃなかったら大問題だなとすら思う。もちろん、信号無視や故障のように、微妙なストーリーのADVゲームもあるけれど。

私は小説や映画などの物語が好きで、幼い頃からいろいろ嗜んできた。そんなある日、ADVゲームというジャンルを知り「つまりは小説だな?」ということでやはり例外なくハマった。2010年前後に最盛期を誇ったPSPはそういったゲームをするのに非常に適していて、いろいろなモノを片っ端から漁った記憶がある。

『ダンガンロンパ』『STEINS;GATE』『車輪の国、向日葵の少女』『リトルバスターズ!』『Ever17 -the out of infinity-』・・・・・・数え切れないほどの名作があった。どれもが予想だにしない物語と感情を打つ音楽、魂のこもった声優の演技で心を揺さぶってくれた。

感情の伴った記憶はいつまでも新鮮な情景として残っているようで、セミの声が聞こえる快晴、窓を開け放った部屋でピノを食べながら◯ボタンを押していた、あの日のワンシーンは今もありありと思い出せる。私にとってあの日々は、遠い過去という感じはしない。

そんなADVゲーム好きにとって、作品の優劣は割と曖昧なものだった。たとえばアクションゲームならば明確に上下があり、「これは面白かった」「これは面白くなかった」みたいになることが多い。ゲーム性という分かりやすい比較対象があるからだ。

しかし、ADVゲームはどうだろう。比較対象はストーリーの良し悪しでしかほぼ決められ無いのだが、ここは優劣を判断しにくい部分だ。映画とかでもそうだが、結局は個々人の好き嫌いになる。回避フレームの猶予時間は好き嫌いで判断するものじゃないが、物語についてはそれが適応される。そうなると、ゲームとしての比較はしにくい。

結局、「どれも良い」となるものだ。

ダンガンロンパのクローズドな空間での疑心暗鬼の恐ろしさや、シュタゲの徐々に見えない闇が近寄ってくる不気味さ、それらは比較できるものじゃなく、みんな違ってみんな良いものだ。だから私にとってADVゲームは、一様に良い、という評価で落ち着いている。

しかし、そんな中で、革命が起きる。圧倒的に、頭1つ抜き出た傑作に出会ってしまったのだ。「面白い」ではなく「スゴい」と、心から思えてならないゲームに触れてしまった。それが『十三機兵防衛圏』だ。私にとってこの作品は、スゴい・・・・・・というか、もはや怖い。

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十三機兵防衛圏の始まりは、なんとなく描いた年賀状だったそうだ。特に展望もないままなんとなく描いたイラスト、そこから6年の地獄が始まり、満身創痍で発売までこぎつけられたのだから、何が起きるかわからない。消費者としては「発売してくれてありがとう」以外にないけれど。

当時の動向を追っていたファンからすると、正直「企画が消滅したかな」と思っていたのはある。なにせまったく続報がなかったのだ。本当に何も情報が無く、期待しようがなかった。

『グリムグリモア』や『ドラゴンズクラウン』で知られるヴァニラウェアは、数少ない心から信頼しているゲーム会社だ。ここのゲームは一通りやったが、面白くなかった作品がない。つまりは打率10割なのだからビビる。そんなディベロッパーの出す新作なのだからきっと・・・・・・とは思っていたものの、さすがに暗雲が立ち込める。何も動きがないまま月日が経過していたのだから。

ようやく十三機兵防衛圏の明確な情報が出たころには、あの年賀状の存在を知った場所から2回も引っ越していた。そう思うと、どれだけ長い時間が経っていたのかよくよく実感する。

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さて、他のADVゲームが「良い」となる中で、どうして十三機兵防衛圏はその一段上を行く「とても良い」という評価になり得たのかと言えば、これを作るのにどれだけの手間がかかるんだろうという、その想像がつかなかったからだ。途方もない設計、たとえ技術や体力があったとしても自分じゃ絶対に作れないと思えるぐらいの狂気的な作り込み、それをプレイの端々から感じられる。この畏怖とも言える感情が、作品の評価を押し上げているのだ。

冷静に考えて「13人の登場人物が過去現在未来でつながる群像劇」なんて、ベテランの作家でさえ二の足を踏むような題材じゃないだろうか。

私もオタクの1人として少なからず小説に挑戦した人間ではあるが、恥ずかしい話、3人の登場人物ですらその管理はままならなかった。そして、ただのボーイミーツガール的な話ですらしんどいのに、そこからさらにSF要素をふんだんに盛り込むのは、ちょっともう無理。収拾がつかない。

細かい話はネタバレになるので割愛するが、十三機兵防衛圏は何も昭和を生きる13人の少年少女のハートフル物語ではない。物語の全貌はとんでもなく壮大なもので、まず初見で予想することは出来ないほどだ。私はそれなりにハヤカワに育てられたSF好きではあるものの、オチは予想がつかなかった。

・・・・・・とまあそんな大規模な、設定だけ聴いたら「これ3ページ目で進まなくなるやつだな」と誰もが思うような話を、神谷氏はやりきった。

だが、さらにこのゲームの恐怖は続く。ここまではあくまでスクリプトの話だ。つまり、話の骨子にあたる。ADVゲームは文章だけあっても完成しない。そう、ビジュアル部分がここから作業として乗っかってくる。ああもう、恐ろしい。「13人の登場人物が過去現在未来でつながる群像劇」に必要な素材をすべて作らなければならないのだ。

ヤバいゲームじゃないだろうか。これ、とんでもなくヤバいゲームなのでは?

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『インターステラー』という映画がある。あらゆるSF映画を過去にしたと言える傑作なのだが、この作品のスゴいところは「なんとなく見られる」部分だと強く推したい。なぜここまで高評価なのかの理由でもある。

まず、そもそもSFというのはかなり人を選ぶ。シンプルに難しいのだ。それこそインターステラーは宇宙を旅する物語ではあるのだが、それは別に「無重力すげー」みたいなものではなく、多次元解釈やウラシマ効果、特殊相対性理論やらイベント・ホライゾンとか数多の前提知識が無いと「?」となる部分がある。

しかし、「分からなくても面白い」のだ。これがインターステラーのスゴいところだと思う。SF好きはワクワクするようなスペクタクルショーに没頭し、そこが良くわからない人はシンプルな親子愛に心を打たれる。本来、共存の難しいそのベン図をグッと掌握しているのがスゴいと思う。

十三機兵防衛圏も同じだ。ゴリゴリのSFではあるけれど、完全に話を理解する必要はない。実際、私も「だいたい分かった」レベルでエンディングにたどり着いたが、それはそれとしてとても感動していた。根幹の話さえ勘違いしなければ、ストレートな恋愛モノとして楽しめるのだ。

なんとなく触れるにはハードルが高い。しかし、実際触れてみたらスルリと入ってくるアクのなさ。それが十三機兵防衛圏の物語だと思う。

実際、本作を敬遠している人はたぶんこう思っているだろう。

「SF? 難しそう」
「ロボットものってあんまり興味ないんだよな」
「話が複雑そうでイマイチ・・・・・・」

けれど、実際やったら以上の思い込みは、本当に思い込みだということが分かるはずだ。確かにロボットはいるけれど、別にそんな『スーパーロボット大戦』みたいなゲームじゃないんだよね、十三機兵防衛圏。

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感動の再現というのは難しいと思う。ただボタンをポチポチするだけの行為に、どうして笑い、怒り、涙を流すことができるんだろうか。反応の極致としてそういう営みがあるにせよ、実情としては難しい。

しかし、十三機兵防衛圏は文字通り、笑いあり涙ありの展開を見せてくれた。それはくどくわざとらしいものではなく、自分がそこにいると思えるぐらい感情移入のできる、心からの情動だ。『渚のバカンス』をバックに戦うあのシーンは、泣きすぎて前が見えなかった。

それを成し遂げているのはもちろん、徹底して作り込まれた様々な構成要素なのだけど、やはり大きいのはキャラクターの造形の深さにある。丁寧に作られたキャラの存在感がとにかくスゴい。私は、本作のストーリーが好きというよりも、十三機兵防衛圏の少年少女たちがどうしようもなく好きだ。

そして不思議なことに、私は男にして、本作の男キャラのほうが好きだ。全員が魅力的で、動向が気になる面白さを全員が持っている。戦闘力以外は欠けまくってる比治山も、雑だけど男らしくて頼れる緒方も、そして見た目も中身もイケメンの網口が私は大好きだ(もちろん他全員も)。同性が魅力的に映るってスゴいことですよ。

中でも網口は本当に忘れられない。放課後に彼の部屋で遊んだこと、そこで彼女と出会い、そして歌ってくれたあの曲は、どうしてかノスタルジーを感じずにはいられなかった。はじめましてなのに、懐かしさが込み上げてきたのだ。

ここがすごいよ十三機兵防衛圏

自分が外野だと思っている物語ほど退屈なものはない。しかし、没入することが難しい作品があるのもまた事実だ。そこで踏み出すきっかけになるのはなんだろうか? それはやはり、キャラへの親近感だと思う。

十三機兵防衛圏のキャラは、誰しもが何かしら親近感を得られる要素があり、だからこそフィクションの誰かという気はしなかった。キャラへの愛着が湧くのに必要なのは時間じゃない、きっかけと共通項なのだ。

私はあの昭和の世界で過ごした数十時間を忘れない。あそこで出会った連中のことを忘れない。10年後になんとなく焼きそばパンを食べたら、思い出すのはたぶん比治山だと思う。それぐらい、彼らの存在は心に残ったままだ。

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とまあそんな感じで、なんとなく勢いに任せて十三機兵防衛圏というゲームについて思うことを書いてみた。もっと時間をかけて、他の記事のように数万文字単位で語ってもいいのだが、今回はちょっと(?)長いツイートぐらいの気分で終わりにしようと思う。

私は何も、インターネットの攻撃的なオタクのように「やれ!」と強めに布教したいわけではない。そもそも、ネタの姿勢とは言えそういうのは何も求心力がないどころか、むしろ引いてしまうきっかけにすらなりえるからあまり好きじゃない。

何事もタイミングというものがある。みんなでPSPを持ち寄って『モンスターハンター』をしてなくても、最新作を楽しんだっていい。初代を知らないまま『ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて』をやったっていい。その人にとっての最適なタイミングが、きっとあるはずなのだ。

だから私はただ、このゲームが好きだということだけを述べる。キミは十三機兵防衛圏をやってもいいし、やらなくてもいい。少なくとも私は、やって後悔はしなかったし、それどころか、やれて良かったと心から思えた。今後ずっと忘れることのない大切な思い出が生まれた、このゲームが大好きだ。おおげさだが、日本語が母国語で良かったとすら思えたほどだ。

「良い物語」を求めている人がひとりでも多く、この作品に気づけたらいいなと、そう思う。

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