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ウィズコロナでカーシェアの業績はさほど落ち込んでいないという話 ~背景を読み解く~

戦略コンサルタントのアップルです。

今回はウィズコロナでカーシェア業界がどうなっているのかについてご紹介します。カーシェア最大手のパーク24の業績や、パーク24が実施したユーザーアンケートから実態を読み解いていきます。

結論を先に言うと、タイトルにもあるとおり、鉄道や航空が軒並み大打撃を受ける中、カーシェア業界はさほど業績が悪化していません。

・定量的にどのくらいカーシェア市場は落ち込んでいるのか?
・業績悪化がマイルドである背景には何があるのか?

こういった点について、実データをもとに解説していきます。
カーシェア利用者など、カーシェア業界に興味ある方はぜひご覧ください!

カーシェア業界の圧倒的ガリバーはパーク24

カーシェアはここ10年くらいで急速に成長したマーケットです。シェアリングエコノミーが広がる中、クルマについても「保有するよりシェアする方が経済合理的」という風潮が高まり、利用者数が右肩上がりで増えてきました。

このカーシェア業界で圧倒的なナンバー1プレーヤーがパーク24です。長年駐車場ビジネスを展開してきた同社ですが、国内でいち早くTimes CAR SHAREのブランドでカーシェアビジネスに着手し、現在はシェア7~8割という極めて高い市場シェアを押さえています。それに追随するのがオリックスやカレコですが、市場シェアはこのように圧倒的な差なので、国内のカーシェア市場はもう勝負が決しているといえるでしょう。

備考:
パーク24やオリックスはBtoC型のカーシェア事業ですが、DeNAなどがCtoC型のカーシェア事業(個人所有の自動車を誰かに時間貸しする)を始めており、パーク24にとって脅威になるとすればこういうプレーヤーの台頭だと考えられます

このようにパーク24が圧倒的ガリバーなので、ウィズコロナでの変化含め、カーシェア市場の動きはほぼパーク24の動きを追っかければ理解できます。

ということで、ウィズコロナでパーク24の業績はどうなっているのかをみてみましょう。

パーク24の直近四半期決算の内容

パーク24は東証一部に上場しており、四半期決算も出しています。多くの企業が3月決算の中、パーク24は10月決算(10月31日が決算の締め日)なので、開示されている最新の四半期決算は2月~4月(パーク24にとっての第二四半期)になります。

2月~4月と言えば、国内(クルーズ船)でコロナが発生し、拡大していった時期に当たります。4月7日には緊急事態宣言が発出され、外出自粛が強く要請されました。

パーク24はレンタカー事業とカーシェア事業とをあわせた「モビリティ事業」としてセグメント情報を開示しています。ですので、カーシェア事業単体の売上や利益は確認できませんが、モビリティ事業の業績から大まかな傾向は掴むことができます。

【パーク24 モビリティ事業の四半期業績】
◇前年同期(2019年2月~4月)
 売上高 404億円
 セグメント利益 30億円

◇当期(2020年2月~4月)
 売上高 365億円
 セグメント利益 ▲6億円

※出所(決算短信)はこちら

つまり、前年比で売上高は1割減少し、それに伴って損益分岐点を若干下回り黒字から赤字へと転換しています。

アップルはこの数値をみたとき「思ったより業績悪化がマイルドだな」と思いました。外出制限によって航空機や鉄道が思いっきり業績が落ち込んでいるのに対し、売り上げが前年同期比で1割減というのは相当マイルドです。

なお、パーク24のカーシェア会員数はコロナ発生以降も増え続けています。

【タイムズカーシェア 月次会員数の推移】
1月 1,344千人
2月 1,357
3月 1,376
4月 1,386
5月 1,397
6月 1,413
7月 1,432

同様の会員ビジネスであるフィットネスクラブで会員が激減しているのと比べ、これまた意外な感じがしました。

なぜ、カーシェアの業績悪化は限定的なのか?

この背景や理由を知る上で、パーク24が7月にカーシェア利用者(タイムズカーシェアの会員)に対して実施したアンケート結果が参考になります。

まず、緊急事態宣言中のカーシェアの利用頻度の増減については、「減った」とする人が37%いる一方、「増えた」とする人も18%います。

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全体としては利用頻度が減っていることが窺えますが、利用頻度が変わらない人、さらに増えている人もいるため、マイルドな業績悪化にとどまっているということでしょう。

カーシェア利用が一部利用者で増えている要因の考察も含め「なぜカーシェアの業績悪化がマイルドなのか」についての3つの理由を書きます。

 理由①:巣ごもりによる買い物需要の増加

さらに、アンケートでは、「増えた」と回答した人に対して、「どういう用途で増えたのか」を聞いています。その結果が次のグラフです。

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最も多いのは買い物等での利用です。外出制限がかかって以降、家にこもらざるを得なくなり、食材などの買い物の量が増えていますが、この買い物用の「足」としてカーシェアが重宝されていることが窺えます。

子供がたくさんいるご家庭だと、コストコなどの郊外型のスーパーで大量に安く買うこともありますが、そういうときにカーシェアが使われていると思われます。買い物需要の増加が、「買い物車」としてのカーシェアのニーズを喚起したということです。

 理由②:感染リスクが低い移動手段という魅力

カーシェアというかクルマは密閉空間であり、第三者と(直接的には)接触しないので、感染リスクが低いです。コロナの感染が広がる中、その点の魅力が訴求し、需要が高まったことも考えられます。

実際、アンケートの中でも、コロナ禍ならではの使い方として「公共交通機関の代替」という回答が多く出ています。

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 理由③:料金モデルがサブスクだから安定

カーシェアは月額基本料金と従量料金の2階建ての料金モデルです。
アップルもタイムズカーシェアの会員ですが、プランによって多少の差はあるものの、概ね、
・月額料金を1,000円払い、
・利用するときに、15分200円程度の従量料金を払う、
という料金モデルです。

月額料金の1,000円は、その月にカーシェアを利用しようがしまいが支払わないといけない料金です。実際アップルもここ数ヶ月はタイムズカーシェアを使っていませんが、月額料金の1,000円は毎月引き落とされています。

つまり、カーシェアの料金モデルには、サブスクの要素が多分に入っています。言い方を変えると、月額料金という「ストック収入」が毎月チャリンチャリンと入ってくるわけです。

タイムズカーシェアの直近の会員数は143万人なので、全員毎月1,000円の月額料金を支払っているとすると、

143万人×1,000円×12ヶ月=172億円

の年間売上が立ちます。

このように、売上の一定割合とは言えストック収入があると、不況のときでも業績の安定化に資することになります。ストック収入をしっかり持っているのも、パーク24の業績悪化がマイルドである一因であるとアップルは分析します。

最後に:ウィズコロナの業界別影響をみる視点

以上、パーク24の業績を軸に、ウィズコロナのカーシェア業界の動向についてみてきました。

最後に言及した「ストック収入があるから業績悪化がマイルド」という話は、各業界のウィズコロナの影響をみる上で一つの観点になるとアップルは考えています。

例えば、居酒屋などの飲食店がが厳しいのは、ストック収入が全くないからです。ホテルも同じです。フロー収入だけでやりくりしている業種・業態は、その需要が減少すると一気に厳しくなります。

フローとストックについては、以前記事を書いていますので、興味ある方はぜひ併せてご覧ください!


今回はここまでです。
最後までご覧いただきありがとうございました!



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