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組織の学習障害の4類型

最近出版された中土井僚著『ビジョンプロセッシング』に、組織の学習障害に関する整理が紹介されており、非常に興味深かったため、多少アレンジを加えつつ共有します(同書のP394に記載されています)。

まず、組織学習は以下のようなサイクルで進行します。

  • ①見る(起点):組織内で起こる事象を観察する

  • ②思う:観察した事象を自分なりに解釈し、意見を持つ

  • ③言う:その意見を組織内で発言し、周囲に理解を求める

  • ④する:必要とされることを実行に移す(その結果を再び観察し、サイクルの起点に戻る)

このサイクルは、個人やチーム、組織単位で、誰もが少なからず実践しているものでしょう。PDCAサイクルの進化版であるOODAループ(注)に近いサイクルと言えるかもしれません。

注:OODAループとは、Observe(観察)→Orient(情勢判断)→Decide(意思決定)→Act(行動)のサイクルで、特にパイロットのように急変する環境下での意思決定と行動を示したものです。近年では、変化が激しいビジネス環境にも適用され、PDCAに代わるものとして注目されています。

さて、このサイクルが組織学習の基本メカニズムだとすると、組織の学習障害は、このサイクルのどこかで目詰まりが生じることによって引き起こされると考えられます。そして、どの箇所で目詰まりが発生するかによって、学習障害は4つに分類されます。

不感

「見る→思う」の部分で目詰まりが起こる障害がこれです。組織の中で多くの情報を見聞きしても、それが構成員の解釈や意見につながらない状態です。いわゆる「右から左に聞き流す」状態です。

この原因には、まず能力の問題が挙げられます。解釈する力が不足している場合です。コンサルの現場でも、会議後にプロジェクトチームで「会議の内容の解釈」をすり合わせることがありますが、同じ会議に参加していても(つまり「見る」は同じでも)解釈がメンバーごとに異なる、シニアメンバーとジュニアメンバーで解釈の深さが違う、といったことがよくあります。

もう一つはやる気の問題です。仕事に対する関心やオーナーシップが弱いと、観察した事象に向き合わず、解釈や自分の意見を持たないという状況が生まれます。

保身

「思う→言う」の部分で目詰まりを起こす障害です。心理的安全性が低い組織では、自分の意見を率直に言うとリスクがあるため、「言わない方がマシ」と口をつぐんでしまいます。

「忖度」もこの一形態で、本来言うべき意見を歪めてしまう行為です。思ったことをそのまま言わない、という点で組織の学習障害と言えます。

評論

「言う→する」で目詰まりを起こす障害です。どの組織にも評論家のような人物が一定数おり、口では多くを語るものの実行に移さないため、組織として成果が出ず、また失敗からの学習も得られません。口では仕事をしているように見えるため、厄介な存在です。

やりっぱなし

「する→見る」で目詰まりを起こす障害です。実行はするが、その結果を振り返らず、実行の質が上がらないままになる状況です。多くの組織ではKPIを精緻に設計し、実行成果のモニタリングを行う取り組みが増えていますが、まだ多くの組織でこの問題が観察されます。


以上、4つの組織学習障害を見てきました。これらのうち一つでも発生すれば、組織学習の好循環は断たれ、停滞します。自分が属する組織において、どの障害がどれほど根深いかを見極め、それを取り除くための対策を考えることが、組織の持続性や成長において極めて重要です。

なお、アップルの所感として、4つの類型には「根深さ」の違いがあると思います。

比較的対処しやすいのは「不感」と「やりっぱなし」です。不感は構成員の理解力の問題であり、理解力を高めるコミュニケーションで対処可能です(コンサルティングファームでは、パートナーやマネージャーがジュニアに対して解釈を共有し説明する場面が典型です)。また、やりっぱなしは経営数値の可視化やKPIの設計で対処できます。

一方、「保身」と「評論」は根深く、一筋縄ではいきません。

保身に関しては、心理的安全性がキーワードとなりますが、これを高めるためにはトップおよびミドルマネジメントのマインドセットやマネジメントスタイルを変える必要があり、容易ではありません。

また、評論家を減らすには外発的動機と内発的動機を組み合わせ、構成員のオーナーシップを高め、有言実行のカルチャーを作るという課題に取り組む必要があります。外発的動機は人事評価制度の見直しなどが考えられ、内発的動機としては組織のパーパスやミッションの浸透、権限の大胆な移譲が施策となりますが、いずれも効果がすぐに現れるものではなく、腰を据えて本気で取り組む必要があります。



組織の学習障害を取り除き、「学習する組織」をどう作るか。これまで以上に、経営者など組織のリーダーには向き合うことが求められるイシューと言えるでしょう。

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