コンサル業界における役職バブルとブランド棄損
今回の記事では、コンサル業界で最近起きている「役職バブル」の背景と、それが続くと何が起きるのかという見立てについて述べます。結論から言えば、役職バブルが起きるのは必然、しかし長期的にはブランドを棄損してじわじわ自分たちの首を絞めることになるだろうとの見立てについて述べます。
大局的にみると、コンサル業界において「合成の誤謬」あるいは「緊急度が重要度を駆逐する」が起きていると考えられます。ぜひご覧ください。
役職バブルとは?
役職バブルとは、コンサルティングファームにのある役職に、その役職の実力に見合わないと判断される人が昇格、採用されることです。アップルが属するファームでも近年この傾向は強まっていますし、ツイッターでも役職バブルに関連するツイートがしばしばみられることから、他の多くのファームでも起きているものと思われます。
役職バブルの具体例を挙げると、
・PMロールをする力量が十分備わっていないと判断される人材が、PMロールをミッションとするマネジャーに昇格する
・コンサル業界未経験者が(=コンサルスキルはおぼつかないと想像される人物が)マネジャーのポジションで採用される
といったものです。ジュニアからシニアまでどの役職においてもバブルは起きていますが、特に顕著なのはPMロールを担うミドル層(マネジャーやディレクター)かもしれません。
役職バブルが適用される当事者にとっては棚ぼたという意味でうれしいことなのかもしれません。しかし、周囲からは「え、なんであの人がマネジャーに?大丈夫かな?」と冷ややかな目で、あるいは不安な目で見られることになります。当事者にとっても、昇格の瞬間は棚ぼたでうれしいかもしれませんが、その後は与えられたミッション・役割を十分にこなせずに苦労する確率が高いことから、必ずしもうれしいことではないと思います。しかし現実にこうした役職バブルが頻発するようになってきているのです。
アップルがコンサル業界に入った10年ほど前には、役職バブルはどのファームにおいても起きていなかったと思います。プロジェクトの要のマネジャーやディレクターは、コンサルティングファームで5~10年の経験を積んだ確かなスキルと経験の裏付けをもった人材が担っていました。
「俺もこれくらい切れ味あるコンサルタントになってみたい」と憧れの的になるような人物が担っていたのですが、役職バブルの結果いまやコンサルの経験もスキルも怪しい「メッキ人材」がミドル・シニアのポジションにつくことも増えてきています。
役職バブルが起きるメカニズム
では、こうした役職バブルはなぜ起きているのでしょうか?端的に言えば、コンサルティング業界が売り手市場になってきているからです。以下、「昇格バブル」と「採用バブル」に分けて、少々丁寧に採用バブルが起きるメカニズムを紐解いてみましょう。
昇格バブルが起きる理由
まず、「昇格バブル」が起きる理由を具体的にみてみましょう。昇格バブル、すなわち「本来は昇格要件を満たしていないが、エイヤで上げてしまう」という現象が起きるのはなぜかといえば、「昇格させないと辞める可能性が高いから(正確には、辞める可能性が高いと評価者が考えるから)」です。
昇格させなかった場合に、
・役職・年次の近い人物が昇格したのに自分が昇格しないことに対してへそを曲げて辞めてしまう
・昇格が先送りになることに対してしびれを切らし辞めてしまう
というリスクがあるため、そのリスクを回避するために見切り発車で昇格させてしまうということです。
現在はコンサル業界が売り手市場であるため、他のファーム、さらにはポストコンサルを求めている事業会社など、辞める場合の選択肢がたくさんあります。そのため、「ちょっと機嫌を損ねて辞めてしまう」ということが実際に起きる確率が高まっており、それを事前に察知した評価者が昇格をさせて離職リスクを回避するということが起きているのです。
採用バブルが起きる理由
次に「採用バブル」が起きる理由を見ます。これも昇格バブルと基本的には同じメカニズムです。売り手市場なので、コンサル業界志望者は以前に比べて複数社からオファーをもらうケースが増えています。そうした争奪戦の中でファームがオファーを受諾してもらうためには、条件、すなわちポジションや待遇を引き上げざるを得ません。その結果、未経験者のマネジャー/ディレクターでの採用など、ひと昔前では考えられなかったような採用バブルが起きているのです。
実際に、未経験者のマネジャー/ディレクターの下で働くコンサルタントの不平不満のツイート(「全く使い物にならん」とか「未経験者をマネジャー採用はしてはダメ」とか)のツイートをよく見かけます。
役職バブルは何をもたらすか?
上記のとおり、役職バブルが起きる背景には「コンサル業界の売り手市場化」というマクロ変化があります。マクロ変化の結果必然的に役職バブルが起きているということです。
コンサル業界は現時点では好況、つまり需要が供給を上回る状態が続いています。コンサルは人工商売なので、需給ギャップを埋めるためには頭数を増やすしかありません。しかし労働市場をみれば売り手市場となっており、人を維持し増やすのは容易ではありません。
売り手市場の中で人を引き留め、さらに人を獲得するためには、「一つ上の役職のちらつかせ」というニンジンをぶら下げざるを得ないというわけです。これは短期的な目線では合理的な行動です。
一方で、長い目線に立った時には、こうした行動は何をもたらすでしょうか?端的に言えば、それぞれのファームさらにはコンサル業界全体のブランドの棄損をもたらすのではないかと危惧しています。具体的には以下の2つの側面でブランドの棄損が起きると考えられます。
①サービスのクオリティ低下によるファーム全体のブランド棄損
本来マネジャーの力がない人材をマネジャーに、本来シニアコンサルタントの力がない人材をシニアコンサルタントに昇格させた場合、同じ「マネジャー1名+シニアコンサルタント2名」の布陣のプロジェクト体制でも、役職バブル「前」と「後」とではメンバーのスキルレベル・経験レベルが落ちることになります。肩書という「メッキ」は同じでも、中身は劣化しているということです。プロジェクトのスタート段階ではメッキしか見えませんが、プロジェクトを進行する中で徐々にそのメッキがはがれ、クオリティが下がり、クライアントはフラストレーションをもつことになるでしょう。
②役職のブランド棄損
役職バブルによって、例えば「戦略ファームのマネジャーとはこれくらいのスキルレベルを持っているものである」といった従前からのイメージ感や信頼感が崩れることになります。ブランドとは、裏付けとなる信頼があって成り立つものなので、「コンサルティングファームのマネジャーもずいぶんレベルが落ちたもんだな」とブランドを棄損することになります。
こうしたファーム全体・役職別のブランド棄損の結果、
・サービス単価がじわじわと下がる
・役職バブルに辟易した古参のシニア・ミドルが馬鹿らしくなってやめる
という無視できないクリティカルなマイナスのインパクトをもたらすことになるでしょう。
今後どうなるか?
では、今後どうなるのでしょうか?
需給ギャップがプラスのうちは、役職バブルでごまかしながらコンサルティングファームは拡大を続けるでしょう。しかしその裏側で、本稿で指摘したようなブランドの棄損、単価の下落、優秀層の離脱がじわじわと進行します。そしてどこかのタイミングで、需給ギャップがマイナスに転じ、そこからは一気に逆回転が進むでしょう。
需給ギャップがプラスからマイナスに転じるタイミングがコンサルティング業界にとってのXデーと言えるかもしれません。それが1年後なのか、3年後なのか、はたまた5年後なのか?アップルも引き続き考察を深めてみたいと思います。
今回はここまでです。
最後まで御覧いただきありがとうございました!