見出し画像

神社で育む知的好奇心 ~子ども大学SAITAMAの取組現場から~

「子どもは地域で育てる」

これは、子ども大学SAITAMAのポリシーである。

子ども大学SAITAMAは、さいたま市内の10才以上の子ども(小学4・5・6年生)を対象に、市内にある大学や各種学校、民間機関、地域、保護者の皆の協力を得ながら、大学レベルの内容をやさしく教える、「子どものための大学」として、毎月1回(または2回)子ども達の知的好奇心を能動的に育む機会を提供している。具体的には、大学のキャンパス等を会場に、大学教授や地域の専門家等が講師となり、講義や体験活動が行っている。

「子ども大学」とは


「子ども大学」の理念自体は、2002年にドイツのチュービンゲン大学で始まり、ヨーロッパに広がったもの。日本では、平成21年(2009年)3月に誕生した「子ども大学かわごえ」が初となる。以後、埼玉県ではこの取組をモデルとして翌平成22年度以降、子供の学ぶ力や生きる力を育むとともに地域で地域の子供を育てる仕組みを創るため、子ども大学の開校を推進。子ども大学SAITAMA始め、現在では県内各地に広がっており、令和6年度6月時点で52か所開催中だ。各子ども大学においては、NPOや自治体が運営の母体となったり、大学や団体、自治体等が実行委員会を組織したりと「地域の教育力」を結集した運営が行われている。
※参考資料 埼玉県・令和6年度子ども大学
https://www.pref.saitama.lg.jp/f2215/kodomodaigaku/r06kodomodaigaku.html

子ども大学SAITAMA
さて、子ども大学SAITAMAでは具体的には「はてな学」「ふるさと学」「生き方学」の3つの分野を意識した講義を展開している。私はこのうち、2022年の「ふるさと学」から、武蔵一宮氷川神社様とともに講師として参加してきた。

取組を考えるにあたり、「地域で暮らし育つ子供たちに地域のことを座学で伝えるだけでは一方的な講義になりがちで、それでは地域を理解することに繋がらないのではないか」という共通認識を持ち、内容を考えている。
神社に実際に足を運び、神社を体感する仕掛けにすべく、武蔵一宮氷川神社の境内を子どもたちが能動的に巡りながら、神社そして地域の歴史や育まれた文化を学んでもらう仕掛けつくりを目指している。

そこで行っている取組のひとつが、境内を舞台とした謎解きクイズ=神社フィールドワークである。

謎解きポイントは、子ども大学の企画を手伝ってくれる子どもたちと神社、そして大学の3者で選定し、私は武蔵一宮神社の歴史などの紹介に加え、この謎解きクイズの回答コメント及び解説を担当している。ここで大事な点は、謎作りも子どもが考えていることだ。大人目線では気が付かない神社への疑問が見つかると共に、大人にとっても神社を知ってもらうために必要な目線を知ることができ、有意義である。

2022年のふるさと学は9月4日(日)に開催され、応募人数40名を大幅に超える20倍ほどの応募数があったと伺っている。そして当日、多くの大人が裏方に回りながら、子供たちだけで謎解きに取り組み、座学にも取り組んでくれた。そのスケジュールは以下の通り。

【当日の流れ】
9:00 呉竹荘一階 集合
9:00-9:30 流れなど確認の打合せ
9:30 受付開始(出欠等確認)
10:00 開始・挨拶・諸注意など
10:05 三の鳥居へ移動→フィールドワークスタート
10:45 フィールドワーク終了→呉竹荘へ移動・休憩
11:00 講座再開・遠藤権禰宜(武蔵一宮氷川神社)、山崎からお話をする「氷川神社を知ろう!」コーナー
11:35 一旦終了。三の鳥居へ移動開始
11:40 境内見学
12:20 境内見学終了・まとめ
12:30 記念撮影後、解散

当日は、4~5人1組となって謎解き(フィールドワーク)に挑戦いただいたのだが、早いチームは15分もせずに全問解き明かし、大人たちを驚かせた。
子どもが能動的に動き出した時の理解力は、大人の理解を超えるものなのだと、実感できた瞬間である。

子ども扱いはせず、対話を心掛ける


その後の「氷川神社を知ろう!」コーナーで、回答の解説を担当したのだが、神社側・大学側に事前に許可を得た内容でコメントをする上で作成に注意した点は2点ある。
【1】   子ども向けであっても、大人と同等の扱いで知識を伝える
【2】神社側・子供側にもコメントを投げかけられる形で文章を作成する


【1】の理由は、そもそも、「地域を知りたい」と能動的に参加している子どもたちである。中途半端に子ども扱いをすることは失礼にあたるのではないか…と思ったためである。
【2】の理由は、一方的な知識の押し付けにしないために、常に「対話」を心掛けるための手段である。

そして何より、神社での体験を「楽しかった」という記憶にしてほしいためである。地域での楽しかった思い出つくりは大人側が意識して取り組む必要がある。

地域の神社で楽しい時を過ごした…その思い出は大人になった時、地域そして神社へ目を向けるきっかけのひとつになるはずだ。私はそう信じている。

また、子どもから寄せらせた疑問の中には「なぜ同じ名前の神社が各地にあるのか」という神社そのものについての疑問に加え、「なぜ神社や寺には池があるのか」といった、「そういえば確かにそうだよね。なんでなんだろうね」と一緒に考えたくなる疑問も寄せられた。


派生した取り組み

このような取り組みから派生した事案もある(※こちらは親子での参加事例)。
例えば、2023年11月3日(文化の日)に開催された「日本の神話を大解剖!「氷川の歴史とスサノオノミコト」。ここでは博物館クイズラリーでのとワークショップ「日本の神話」/氷川神社の歴史と大宮公園との関わりなどが行われ、私は武蔵一宮氷川神社の主祭神スサノオノミコトについての解説を担当した。イベント概要は以下の通り。

【イベント概要】
企画名:「日本の神話を大解剖!「氷川の歴史とスサノオノミコト」
日 程:2023年11月3日(文化の日)
時 間:13時00分〜16時00分 ※受付は12時30分より
会 場:埼玉県立歴史と民俗の博物館 講堂
対 象:小学4年生・5年生 その保護者
募集人数:親子50組(100名)
共 催:一般社団法人キャリアチャレンジ総合研究所/埼玉県


当日の様子

子ども大学しかり、「日本の神話を大解剖!」しかり、子どもたちの調べる力(観察力)の高さ、疑問を胸にためずに聞いてくる実行力、その質問内容の細かさと素朴さに常にこちらが学びをいただいてばかりである。何より地域を知ることを楽しんでいる姿がうれしい。

現在、今年の子ども大学(9月開催)の打ち合わせ中である。今年も子どもたちとの地域の学びの機会が楽しみである。


著者プロフィール
山崎敬子

1976年生まれ。実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。
三隅治雄・西角井正大先生の下で折口信夫の民俗学を学ぶ。
2012~2020年の間、小田原市の町おこし会社で地域活性事業に取り組み、現在、学習院大学さくらアカデミー講師(民俗芸能論)、玉川大学芸術学部演劇・舞踊学科非常勤講師(民俗学入門)、(一社)鬼ごっこ協会・鬼ごっこ総合研究所客員研究員、日本サンボ連盟理事など。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集