見出し画像

ショートショート|博士の金庫

発明家であるK氏の家に泥棒が入った。全身黒ずくめに目出し帽を被った男が、銃を片手に言う。
「おい、金目のものを出すんだ。」
「金目のものなんて、ガラクタばかりでここには何もないですよ。」
K氏は驚いた顔で両手を前に出して振った。
「嘘をつけ、最近発明品が完成したとかで、お前が多額の報酬を受け取ったと小耳に挟んだぞ。」
「そうか…バレてしまったんなら仕方がない。」
K氏は諦めの溜息をつき、両の腕を大きく広げた。
「では、この私の家の中から、報酬の入った金庫を探し出してみてください。見つけることができたら、全てあなたに差し上げます。」
泥棒は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「馬鹿な発明家だ。この家はたいして広くない。よって、金庫が見つかるのは時間の問題だ。さっさと見つけてとんずらかかせてもらうぜ。その間、お前は何もできないよう拘束させてもらうがな。」
そう言うと泥棒は、K氏の腕と足を持ってきていたロープで椅子に固定した後、金庫を探しはじめた。だが、どこを探しても見つからない。居間、キッチン、洗面台、トイレ。風呂場の換気扇裏まで調べても何も出てはこなかった。しまいには、泥棒の立てる乱暴な物音で起きた隣人の通報により、警察が来てしまった。
 警察により手錠をはめられた泥棒は、悔しそうに言った。
「おい、お前は俺に嘘をついたな。この家の中に金庫なんてひとっつも無かったぞ。」
手足の拘束を解かれ、手首をゆっくりさすりながらK氏は言った。
「あなたの目が節穴だっただけですよ。今の時代、意外なところに意外なものが隠されていたりするものなんですよ…。」
そして、自分の頭頂部を力強く押した。すると、押された頭頂部がボタンのように内側にベコっと音を立てて凹み、続いてお腹のあたりが自動ドアのように左右に開いた。K氏のお腹にできた空洞の中には、金庫が入っていた。

いいなと思ったら応援しよう!