病室の朝のリアル
目が覚める。鳥のさえずりは聞こえない。廊下を誰かが歩く音。ベッドが軋む音。シーツとパジャマが擦れる音。
僕はスマホの在処を手で探る。平べったい無機質なスマホが手に当たり、画面を触る。眩い光が目の端に写る。顔の前までスマホを持ってきて、目を細めながら画面を覗くと、7:00と表示されていた。その時初めて、朝日の程よい明るさに気づく。ちょうど7:00の明るさだ。勝手に時間の明度を決めつけ、今日も重たい体を持ち上げる。朝は何もやることがない。いや、訂正しよう。朝は特に、何もやることがない。一日中病院内で過ごしている身であるが、朝は時間の進みが遅く感じる上に、一日の中で一番手持ち無沙汰に感じる。
頭はぼんやりしている。目は開かない。体は鉛のように重い。口の中はカラカラに乾燥し、重い腕をコップのある机の上まで移動させて掴み、コップの中の冷めた茶を口まで運ぶ。やることが一個はあるじゃないかと言ってくる人間がいるかもしれない。揚げ足とりはやめていただきたい。僕が乾いた口を潤す間に、常人であれば、ベッドから抜け出し洗面台の前で顔を洗って歯を磨いて冷蔵庫から卵とハムを取り出し鼻歌を歌いながらフライパンの上で卵の黄身と白身とバターを混ぜながら朝食の準備をしていることだろう。それに比べれば僕の行為など、無いに等しい。やる事がないから、自然と動きが遅くなった結果がこれである。ナマケモノと言われてしまっても致し方ない。勿論、可愛いとか愛らしいとかポジティブな意味でナマケモノと言われているわけではないことなど、充分に理解しているつもりだ。
さて今日も、朝食が運ばれてくるまでの時間をどう過ごそうか。スマホを手に取ってみたり読みかけの本を手にとってみたり、はたまた病室からの景色をぼーっと眺めてみたり。一日の始まりである。
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