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統合失調症の一族 -遺伝か、環境か-:ロバート・コルカー

去年の7月に予約した本が、年明けに届いた。
なんでこの本知ったんだっけな。
もうすっかり忘れてるから、過去の私からのプレゼントみたいな気持ち。

どこから話したらいいのかな。
本自体は500ページないくらいなので読みやすいんだけど、内容が濃い。
これがノンフィクションなんだから恐ろしい。

私が持っている統合失調症の知識はゼロに近い。

  • 精神疾患の一つ

  • 話が支離滅裂になる

  • 集団ストーカーに追われてる!とかの幻覚幻聴が症状

  • 頭にアルミホイル系

せいぜいこの程度。
だから、「生まれか育ちか」すら知らなかった。


生まれか育ちか。同じこととと違うこと。

個人的には、計画性のない多産と知能には緩い相関があるんじゃないかって思ってる。特にデータがあるわけじゃない。一個人の考えだ。

だから、「12人も子供を産んだ両親、もとい両親の遺伝子に問題がありそうだ」と思ったし、同時に、12人も子供がいる時点で「育ちに原因がないとはいえないだろう」とは感じていた。

読み初めてすぐ気がつくことだが、両親ともども教養はあった。両親(特に母親)に足りなかったのは、内省と現実を受け止める力だけだろう。

その脆さが伝播したとなれば理解は容易いが、精神に異常をきたしたのは両親含む14人のうち6人のみ。

同じ環境でもなる人とならない人がいる。
遺伝子も近く、育ちも似ているのにこの差はどこからくるのか?
そんな疑問に、精神病を取り巻く歴史と研究を添えて答えてくれるのがこの本だ。

章立ても細かで読みやすいが、いかんせん登場人物が多い。メインとなるのは末娘メアリーだが、描写は三人称視点なので両親+子供達12人の名前と性格はふわっと理解しておく必要がある。なかなかに大変だ。

書きたいことが多い。
話し切れない。
まだ自分の中で咀嚼し終わっていない気がする。
読み終わってから3日経つけど、まだこの感想noteが進まない。
とっても面白かったし、もっとサクサクかけると思ったのにな。


普通。バイアス。人生。またはコントロールできないこと。

一章は主に一家の歴史が赤裸々に語られる。所々に当時の「精神疾患感」が書かれているので、風当たりも感じることができる。

本を読み、考えるということは「自分の中の物差しと比べること」を意味すると思っている。
そういう意味でこの本は、今までの人生で考えてきた「家族」という形と「親の義務・責任」「子供の権利」などのバイアスを通さざるを得ない。

そして、学説の変化に伴って揺るがされる前提によって自身のバイアスに気がつき、指針が取れないまま読み進めることとなる。
不安定な時代を生きた不安定な家族を、不安定な頭で呼んでいることに気がついた時、深淵と同じ苦々しさを感じた。

本だから、私たち読者は前に戻ることもできるし、嫌なシーンは飛ばすことができる。読むことを中断することも、辞めてしまうこともできる。
ギャルヴィン家はどうだろうか?その物語の基礎となった人々はその人生から逃げられずに歩みを進めるしかない。私もそれに倣って読み進めたが、ペースは自身で決めることができる。

自分でコントロールできないのが人生だが、その中でさらに制御不能な因子が多数ある!全く考え難い。

物語であってほしかった。

本当に、何を書けばいいんだ。
メアリーが生き延びた生活はあまりにも壮絶で、一家を襲った精神病は今尚「治る」予定はない。

病に侵される前から、ギャルヴィン家は崩壊しかけていた(少なくとも機能不全ではあった)とすら思えるのに、正しく治療が行われていれば全てが間違われなかったとでも言いたげな語り口ですらある。

出来の悪いミステリーだと言われた方がまだマシだったかもしれないし、ミステリーにしては出来すぎている。

後半の章では、メアリーが兄たちの介護をしつつ、トラウマを含めた自身について振り返り受け入れる話が多くなる。

所々に挟まれる「母と似ている」と言った描写は、何を意味するのだろうか。この話にフィクションはない。となれば、誰かが発言または感じたことなのだろう。いっそ物語であればよかったのに。さっぱりとした描写であってもどうも飲み込めないシーンがいくつかある。

創作物であれば、一言一言に意味を見出せる。物語というものは、自分の世界から必ず一線離れているからこそ受け止め切れるのだ。

何度も書くがこれはノンフィクション。「ノンフィクション風」を売りにして炎上してる作品も何個かあるので調べたけど、どうも本当に「ノンフィクション」らしい。

気に入ったところ〈研究者各位へ〉

個人的に気に入ったのは、研究パートで出てきた言葉だ。

メリーゴーランドに乗るように、人は自分の馬を選ぶ。
そして自分の馬が他の馬を先導しているふりをすることができる。
だが、ひとしきり乗って時間が来ると降りなくてはならず、今が本当はどこにも進んでいなかったことに気付かされる。

世の中のためにと研究を始めたはずなのに、「成果のでやすい」研究を選んではいないか?身を摘まされる思いだ。

1番印象に残ったところが、ギャルヴィン家の話ではなく研究に関するコメントであることも、切ない。

私も学生時代に、「治らない病気」である糖尿病をメインで学んでいたけど、「治る」病気が多くなった現代でも「治らない」ことで苦労している人がたくさんいるのだろう。

見えないことはなかったことになり、
見えない人たちはいないことになる。

この本によって改めて明示されたこの事実をしっかり噛み締めていきたいね。もう研究者でもないから、そういうことを言うのはおかしいのかもしれないけど。

着地が曖昧だな。
とってもよかったよ。おすすめ。
各章は長くないし、読みやすい。狂気をガラス越しに眺めるのが趣味の人にはもっとおすすめ。映画を見る感覚なんだよ。あれこれ書いたけどさ、現実味がありすぎて現実感がないんだ。日本という小さな国から出たことないから、アメリカンスケールもピンときてないし。

でもおすすめ。「正しさ」を考えるきっかけにはなると思うよ。

おわり


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