アポロ3156

初めまして。 小説を投稿してますので読んでみて下さい。

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最近の記事

そんな風に笑って 小説 第七話

「かんぱーい!」 四人の声と共にグラスをぶつけあう心地いい音が店内に響いた。 私はあまり飲まないビールを今夜ばかりは皆と同じものという理由で注文した。苦味の強い液体を一気に喉に流し込むと苦味は初夏の夜のような涼しい炭酸が強調されて喉元を走り抜けた。 「改めて優勝おめでとう!」 賑やかな居酒屋の中でもひときわ大きな声を出す安田に不思議といつものような苛立ちは無かった。 「今回の勝因はやっぱり高山さんの商品に対する愛!ほんと最高!」 思わず口から溢れそうになるビールを手で

    • 第一宇宙速度

      「何年前の光を見てるんだろうね」 星を見ながら彼女は言った。 人気のない公園、シンと静まり、外灯がぽつぽつと灯る中、 彼女はブランコを揺らし足を地面から放り投げている。 髪は一つにまとめた姿は昼間に見ることが叶わない額を晒し、丁寧に手入れされた長い黒髪を夜に溶け込ませて彼女は空に向かって尋ねていた。 肌にシャツが張り付く煩わしさが既に慣れ始めたのはこうして何時間もここにいるからだろう。 「はぁ?」 物思いに耽る彼女の優しい言葉に強がった俺は、いつも通りに、普段と同じ

      • そんな風に笑って 第六話

        夕日がカフェを橙の光で染め上げる。 夏を感じさせるような強い日差しは時計の針が下を向いていても依然と室内に濃い影を落としている。 窓際に座る涼介に伸びる影は机の端にまで届きそうなほど長く、大きな影を作っていた。 いたたまれない空気の中に平静の声で神原は声を掛けた。 「皆、今日はお疲れ様。無事に一次通ったね」 「そうそうよかったっすよね!」 神原の声を皮切りに中浦も努めて相槌を打つが堰き止められた。 残りの二人、春海も涼介も俯くばかりで返事は返ってこなかった。 「……す

        • そんな風に笑って 小説 第五話

          「とりあえずこんな感じかな」 長時間同じ体勢のせいで凝り固まった体をほぐすように大きく伸びをした神原主任は俺たちに発表用資料を見せてきた。 「流石っすね~」 「いい感じですね」 役割分担が決まってからは皆は特に躓くこともなく、進行していた。 二日後に一次発表を控えた今日。 俺たちのグループの進捗は順調だった。 西日の差し込む社内カフェに四人で顔を見合わせながらあーでもない、こーでもないと話し合ってできた発表用の原稿はようやく完成を迎え、後 は質疑応答に対する対策くらい

        そんな風に笑って 小説 第七話

          そんな風に笑って 小説 第四話

          気まずい…… こんなに人を無視できることってできるのか、俺は 彼女の新人類ぶりに取りつく島がなかった。 誤魔化すようにできるだけゆっくりとした動作でコーヒーを飲むがもうカップの白い肌が顔を出していた。 「早く来てくれ~」と内心手を合わせているうちにようやく中浦が来た。 「おつかれ~神原主任はまだ?」 「お、おつかれ!まだ俺と高山さんの二人だけ」 「おぉ元気やな。仲直りはしたんか?」 「そもそも喧嘩してないけど」 高山さんは俺が言うよりも早くに答えた。顔を動かすこ

          そんな風に笑って 小説 第四話

          そんな風に笑って 小説 第三話

          オレンジの空を登るように黒く染められていく道中、タイムカードを切った俺と中浦の歩みは心地いいものではなかったものの、一抹の解放感があった。 問題を抱えたスタート。あの後、高山さんに謝ろうとやきもきしているところに中浦が俺を連れてそのまま会社を出た。 「まぁ高山もあんな言い方も悪いけどお前も大概やなぁ」 会社を出て暫くするとやっと口を開いた中浦から聞き馴染みのある関西弁が聞こえた。 「そうだけどさ…高山さんっていつもあんな感じ?」 「どうやろ、あんな感じかもしれんし初めてな

          そんな風に笑って 小説 第三話

          そんな風に笑って 小説 第二話 

          翌週、涼介は先週人事から来た資料をファイルに閉じた物を片手に第二研修室に向かっていた。 ================================== 『社内コンペについて』 営業第4課 安田涼介様 お疲れ様です。 先日はご参加の旨、ありがとうございます。 早速ですが 5/10(金)17時から第二研修室で社内コンペにおけるガイダンスを行います。 資料とメモをご持参いただき第二研修室にお越しいただきますようお願いします。 資料は当メールのファイルにて送っておりま

          そんな風に笑って 小説 第二話 

          そんな風に笑って 小説 第一話

          あらすじ 文房具メーカーに勤める安田涼介は半年前に営業第四課に異動してから やる気のない日々を過ごしていた。 惰性的で無気力な自分に行き場のない不満を漏らす。 そんなある日、推薦により社内コンペに参加することになる。 そこで愛想のない人物で有名な高山春海と出会う。 愛嬌があって、人に対して素直な部分があるものの、何も努力をしていない後ろめたさを隠すように笑ってごまかす癖や、物事を正面から見ようとしない涼介と不器用でひたむきな実力主義の高山は同じチームで影響を受けていく。

          そんな風に笑って 小説 第一話

          とある夜 短篇小説

          「今どのくらい?」 「さあな~そんな高い山じゃないからもうすぐだと思うけどな」 他人事のように返す裕也は先ほどからずっと振り返ることなくすいすいと獣道のような道を歩いている。 「うわっ」 普段外で運動する習慣のないせいか、ぬかるみに足を取られるとそのまま引っ張られるように尻もちをついてしまった。 「なんだよほんと……」 冷たくて粘っこい泥が手のひらにまとわりつく。 最悪の気分だ。 何が楽しくてこんな遅い時間に山を登っているんだろうか。 久しぶりに家を訪ねてきたかと思

          とある夜 短篇小説

          ちゃぱにい

          「最近この西山田区で不審者が出没しています。できる限り友達と集団で帰るように」 帰りホームルームで担任の岩田先生がそう言ったとき思い当たる人物が浮かんだ。 家の近所のアパートに住んでいる、ひょろっと細長い体系にいつもくたびれた黒のスウェット姿をしていて手を胸の前でもぞもぞと指遊びをしてにやにやと不気味な笑みを浮かべては近所を徘徊している人。 茶色い頭髪は人目を気にしない寝癖がいたるところについていて普通の人とは到底思えなかった。 ぱっと見若そうな顔つきに茶髪の頭髪をし

          新年

          「うぅ、寒っ」 吐いた白い息が街頭に惹かれるように昇る。 厚手の下着にニット帽を耳までかぶり父からもらったくすんだオレンジ色のモッズコートを着て僕はなけなしの温もりを持ったカイロをポケットの中で揉みしだきながら歩いていた。 毎年どうしてこんなことしているのかもわからないけど続けている恒例行事だ。 近所の海に行って初日の出を見る。毎年、年が明けると続けていることだった。 久しぶりに着たコートは流行りのものとは程遠いシルエットでぬいぐるみのようだった。 十代の頃に父が海外

          蝉と星12 終わりです。

          ただ黙って彼女の背中をさすっていた。 女性の背中に初めてちゃんと触れたかもしれい。 小さく震える彼女の背中は熱がこもっていた。 自分は震える小さな背中をいつまでもさすり続けた。 詩歩はそれを拒むこともなくひたすら大きな声で泣き続けていた。 静かな海に響く詩歩の泣き声にこたえるように日が昇り強い光が差し込んだ。 彼女の初めて見る泣いている姿にどうしようと考えることはなくただひたすらそばにいようと思った。 「よかったよほんと」 彼女の丸くなった背中に声をかける。 本当

          蝉と星12 終わりです。

          蝉と星11

          とても素敵な一日だった。 もし明日になっても覚えていたら…… ・ ・ ・ ・ ・ 「みえた!!」 星の瞬きが空を覆い、光の運動会が開かれた。 とても綺麗で心の奥から光を灯してくれる喜びがあった。 皆も一心に同じ空を見上げていた。 こんな綺麗なものがあったんだ。 やがて運動会は終わりを迎え星たちは動かなくなった。 今でも残像が残っているのか星が動いているように見えた。 (終わっちゃった……) どれだけ夜空を見上げ続けても星たちは動かない。 光希君が楽しそうに感想を

          蝉と星10

          八月二十四日 ピンポーン 「光希君きたで~」 「うん、もう出る言うといて」 夜八時、光希は大きめのリュックを担いで家の外で待っていた。自分はこれといった準備もないので手ぶらのまま家を出る。 「ほないこか」 「おう」 暫く二人で歩きつづけると光希はこちらを見ることなく話しだした。 「詩歩ちゃん来てよかったな」 「まあな」 「もうおわりやな~。あっという間やな」 「そうやな。光希は夏休み終わったらどうすんの」 「いつも通りのバイト三昧やな。車の免許取りたいし、

          蝉と星9

          「詩歩ちゃんもこれるの!でも体のことは大丈夫なん?」 「まぁなんともいえん。けど詩歩がそれでも行きたいって言ってるから俺は尊重したいかなって思う」 「詩歩ちゃんがそういうなら……わかったわ予定通り二十四日駅前で8時ね」 「おう」 電話で望に詩歩も行くことを伝えると心配そうにしていたがそれでも彼女たっての希望となると尊重してくれた。 「詩歩ちゃんのことどう思ってんの?」 突然望が訪ねてくる。 「どうって聞かれても、友達やろ」 「ふーん、ちゃんと考えてもいいんち

          蝉と星8

          八月二十日 それからは詩歩と四人で集まることが多くなった。 いろんなところに行って沢山の思い出を作った。 高校最後になる夏休みは自分でも想像つかないくらいに楽しかった。 「ふぅ……」 いつものように朝から走り海に向かう。肌に当たる風は走り始めた熱い風は今では穏やかな冷たさを持ち心地よかった。 海につきいつものベンチに座り今では当たり前のように両手には二つの缶ジュースを持ち約束のない待ち合わせをしていた。 プルタブを起こさずに薄暗い空を眺める。 あの日、光希から帰