アートが心理療法にもたらすこと:①ファンタジーについて
なぜアートがいいの?
病院や介護施設では作業療法やデイケアのプログラムとして、また一般向けの自己発見やリラクゼーションとして、アートは様々な場でケアの用途に用いられています。
「脳が活性化される」「五感が刺激される」「無意識にアクセスしやすい」等々、アートの効能が書かれているのを目にします。
アートがなぜケアに効果があるのか、論文をリサーチして改めて整理したいと思っていますが、今回からしばらくは、アートが心理療法にもたらす利点について、これまでの経験に基づく私の主観をまとめていこうと思います。
アートは、ファンタジー/架空である
これは、アートを心理療法に生かす大きな利点の一つでしょう。
創作表現はあくまで“ファンタジー”であり、“つくりもの”として扱われるということがポイントです。
ファンタジーの中だからこそ、現実の自分が表しづらい感情を解放でき、ファンタジーであることで作り手は守られるという側面があるからです。
例えば、キャンパスを血の色のような真っ赤なイメージで塗り潰したとします。
描き手は、「今日の気分で赤く塗ってみたかっただけ」と話すもしれない、「自分の中のドロドロしたものを絵の中で吐き出した」かもしれない、はたまた「最近観た映画の世界観を再現した」かもしれない、間違いも正解もありません。作品は架空です。
描き手がそこにそれを描いた、ということだけが事実なのです。
セラピストはこの過程に立ち合い、作品が語りかけること、描き手の口から語られることに耳を傾けます。
こちらが一方的に絵を解釈することも、勝手に意味づけすることもありません。
セラピーとファンタジーの関連については、アートセラピーに限らず、諸芸術を扱うセラピーに共通していると言えます。
日本で数少ないドラマセラピストの尾上明代先生と学会発表でご一緒した際に、こんなことをお話しされていました。
“演劇における役は、人を保護すると同時に解放する。”
“自己表現する際に、何かの後ろに隠れることは障害ではなく、手段である。”
エムナー,R.(2007)『ドラマセラピーのプロセス・技法・上演』,(尾上明代訳),北大路書房.
ドラマにしろアートにしろ、扱うものは架空であっても、表現している際の感情的、身体的な体験はリアルであることに他なりません。
むしろファンタジーの中にこそ、リアリティーが凝縮されているのかもしれません。
次回は、「ケアとセラピーをつなぐ」という視点から、アートが心理療法にもたらす利点を見ていこうと思います。
倉石聡子(くらいしあきこ)
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