
映画『シチズンフォー/Citizenfour』『スノーデン/Snowden』
映画『シチズンフォー/Citizenfour』(2014・ドイツ/アメリカ)
深度★★★
当局批判の映画製作により、マークされる対象となっているローラ・ポイトラスのもとに、ある日シチズンフォーと名乗る者から暗号化されたメールが届く。そのハンドルネームは、NSA内部告発者であるトーマス・ドレイク、ウィリアム・ビニー、J・カーク・ウィーブに次ぐ四人目の市民であることを意味した。彼女に共鳴する諜報機関の職員が、内部告発の手助けをして欲しいと依頼してきたのだ。
ストーリーは新聞記者グレン・グリーンウォルドとエドワード・スノーデンの自然体のやり取りを中軸にして成立する。スノーデンは米史上最大級の証拠資料を提示し、身を持って察知した受け付けられない国家の背信行為についてメディアの前に顔を出し激白した。
誰もが何とはなく不気味に感じてはいようが、当事者以外知る由もない職権乱用による政府の独裁化。それに必死に食い下がろうとする一人の青年を通しその何でもありの氷山の一角をにわかに、鬼気迫るドキュメンタリー映画として垣間見ることができる。作り物には出せない臨場感が感じられる。
ホテルでふと鳴り響く火災警報に大げさに驚いたり、家賃はいつも自動引き落としにしているのに今月はなぜか滞納になっていると気にかける。彼の家の前に普段見かけない工事車両が何台も止まっているのは妙だなとか。軽微に思える事象に何かの策略を訝がるスノーデンこそが正常なんだと気づかされる。自分を維持しようとすれば、常に盗撮や尾行など様々な追跡に気を払わねばならず、僅かなミスが決定的危機を招くことになるのだということを。静寂のなかでも着実に進行している脅威の存在を悟り、いつどのように姿を現し襲ってくるかと身構えていなければひとたまりもなくやられてしまうのだろう。
被害妄想ではなく、リアルに、PCのパスワードを入力するときは頭からシーツをかぶり覗かれる可能性を遮断する。
不正を正そうとする人達がいる一方、何者か全力で邪魔者を潰そうとする人達もいる。政府機関のスポークスマンらは何も知らず、お人形のように当たり障りのないセリフを棒読みする。点在している、真実に魅入られた者同士が手を結べば、私利私欲のお偉いさんより遥かに力強いメッセージを公に表明できる。
音楽一部使用:album『Ghosts I–IV』Nine Inch Nails
監督:ローラ・ポイトラス
映画『スノーデン/Snowden』(2016・アメリカ)
深度★★☆
実話に基づき、スノーデンのキャリアと香港でのインタビューの大まかないきさつがわかる。彼だけが特別変わっていた訳ではなく、微妙な心理とタイミングでたまたまそうなったようだ。大抵の人はそれなりの給料と名分があれば上のやり方には反論しない。一般の職員がそこまで悪い訳ではなく、政府の中枢が抱えている問題は易々とは止められないぐらい甚大であるのだ。しかしうまくやれば何かの力になる。
周囲の人々との関係や出来事に対する反応から、彼の人間性に特に焦点が当てられている。権威に盲従し大切なものを顧みなければ出世できるが、彼にはそれが耐えられない。国の役に立ちたいと思っているが何をすべきか見当がつかない。組織のあり方に疑問を感じてはいるが、絶対的な確証はない。その結果として内部告発という手法にたどり着き、社会に問題提起をすることが必然的であるように流れる。いつもの細かい一喜一憂はどこへやら、強者から弱者へなら途端に無法状態。誰もやらなければ議論にもならない。オリバー・ストーン監督が、スノーデン事件の全容に迫ることで有効な一票を投じた。
要点
政府高官は法を尊重すると嘘を言い疑惑の目を遮ろうとし、部下には噓発見器を使ったりして、少しでも引っ掛かる素行が目に入れば、監視対象となる。
せっかく効率や結果を上げられるプログラムを開発したのに、別の使用目的に、仕分けや暗号機能など重要なフィルターは外され、何倍もデータを吸い上げるだけの巨大システムとして軍産複合体のために盗用され、それを訴え出れば左遷される。
ローラ・ポイトラスはイラク戦争を調べたせいで空港で37回、何時間も拘束された。映像を没収されないよう映画の編集のためベルリンに越した。
犯罪取り締まりに関係のない、貿易協定、セックススキャンダル、外交公電などあらゆる弱みを使って、世界の覇権を掌握している。政府の仕事だと言えば何であれおしなべて誰からも犯罪扱いされない。