文化を「10年単位」で考える(TERATOTERA編)
10年前、2011年2月5日の写真です。場所は吉祥寺の井の頭公園。2010年2月にスタートしたアートプロジェクト「TERATOTERA」、初の屋外大規模プログラム「TERATOTERA 祭り 大友良英 井の頭公園 船上ライブ」の準備風景。まだまだ駆け出しのプロジェクトで、著名な音楽家との船上ライブという実験的なコンサート。はじめて尽くしだし、曇ってるし、水辺は寒いし、どれだけの来場があるか不安だし。そんな気持ちの一枚。
結果として夕暮れから日没にかけての水上演奏は、幻想的な音色と相まって忘れられない風景に。幸運にも体験できた来場者、実におよそ2500人。公演後はしばらくインターネット上で話題になっていました。ボランティアを集めに集めた運営もなんとか持ちこたえて、街に打って出るTERATOTERAの、事実上のキックオフとして手応えのある1日となりました。
それから10年経った2021年の2月5日は、TERATOTERAの全ての活動を総括するドキュメントブックの校正作業をしています。この10年の間に起こったことが、ディレクターの小川希さんをはじめ、ベースを担った事務局、企画も運営も楽しみながら立ち回ったボランティア「テラッコ」、参加したアーティスト、アーツカウンシル東京のプログラムオフィサーなど関与者それぞれの言葉で語られる、「熱量」たっぷりの1冊に仕上がる予定です。(校正読みでも熱に侵されがちです。)こんなにもプロジェクトが愛されていて、それによって命が吹き込まれていて、関わった人の人生に影響をもたらしてきたのか、と知ることになりました。
テラッコの語りの中にも何度か「2月5日の船上ライブ」が登場します。いきなりスタッフになって戸惑った人、観客としてきていて関わってみようと思った人。公園の交渉も人集めも大変だったけど、ひとつのチャレンジが誰かの起点となるという経験をこの日に得て、それをずっと繰り返してきたんだなと改めて思います。それは当時担当だった私自身にとっての経験でもあります。
絶え間なくテラッコという「場」があった10年間。TERATOTERAというアートプロジェクトが誰かの「自分ごと」と「語らえる仲間」をつくり続けたことは、東京アートポイント計画がめざしているもの成果とも言えます。テラッコの営みは、10年単位でつくる文化創造拠点のひとつのかたちです。本の完成をぜひ、お楽しみに。
TERATOTERAは10年の道程の中で、「コレクティブ」という概念に出会い、テラッコ自身も「Teraccollective(テラッコレクティブ)」として集い方の所作を手に入れました。Teraccollectiveは昨年、一般社団法人化し、アートプロジェクトの裏方だけのコレクティブとしてより組織的・継続的な展開が期待されます。
ディレクターの小川希さんが10年の振り返りを語ったインタビュー。アートプロジェクトやアーティストとの出会いによって価値観やライフスタイルを変えていくテラッコについて語られています。