#ネタバレ 映画「インスペクション ここで生きる」
「インスペクション ここで生きる」
2022年製作 R15+ アメリカ
2023.8.22
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
*映画「愛と青春の旅だち」(1982年公開)のネタバレにもふれています。
自衛隊でパワハラが問題になっているようです。「お前はバカか」でパワハラ。しかし「戦う組織 耐えてあたり前」という声もあるようです。普通の会社員ではありませんので「戦う組織 耐えてあたり前」という声も一定の説得力があります。
警察官の内情を、コメディかつリアルに描いたTVドラマ「ハコヅメ~たたかう! 交番女子~」にも、普通の会社員とは一線を画すような怖い先輩・上司が出て来ましたし。
それらで思い出すのは、ギアさまの映画「愛と青春の旅だち」(1982年公開)の全編にある、指導教官の「シゴキ」ともとれる言動です。入隊経験のない私は、あれを軍隊(あるいは自衛隊)の標準的風景だと思っていましたが、どうやら、少なくとも自衛隊では問題になるようです。
今回の映画「インスペクション ここで生きる」は、2005年当時のアメリカ海兵隊に志願した黒人青年(ゲイでもある)の物語です。ギアさまの1982年当時だけでなく、2005年でも、映画「愛と青春の旅だち」と同等以上の厳しい訓練が描かれます。
監督自身の経験がモチーフになっているようで、シナリオも書いており、そのせいか、ギア様の作品のように、甘いマスクでもなく、恋愛も絡めておりません。総じて、情け容赦のない辛口の作品に仕上がり、映画ではいつも眠くなる私でも、さすがに睡魔に襲われずに済みました。
さすが米国海兵隊です。
追記 2023.8.22 ( 当時は「パワハラ」という言葉もなかったが )
小学校低学年の時、私の担任は女性でした。高齢者になった昨今、彼女で思い出すことは、私への棘のある言動ばかりなのです。半世紀以上たっていますが、まだ昨年の事のようです。ぼんやりと、それらの点と点を結んだら、どうやら、(無実の、ある出来事をきっかけに)私は先生からの「イジメ」というか「パワハラ」に遭っていたようだと思い至りました。
でも、小学生の私には理由も分かりませんでした。ただ「ふゆかい」とは思いましたが、(よのなかそんなもん、だと思っていたのか)蚊に刺された程度で、それ以上のダメージはありませんでした。その鈍感力はどこから来たのかと言えば、私の家庭環境が鍛えてくれたのだと思い至りました。鈍感力は社会に出てからも私を守ってくれました。
(本文と追記は2023.8.2の記事に加筆再掲したものです。)
追記Ⅱ 2023.8.22 ( 候補生と海兵隊員 )
映画「インスペクション ここで生きる」を観て感じたのは、鬼の教官は海兵隊の候補生(訓練生)と海兵隊員を区別しているという事です。上官と部下という区別はどこまで行ってもつきまとうでしょうが、それとは別に、人間扱いされない、候補生(訓練生)という存在があるのです。
パワハラどころか、人間扱いされないような、言動を受けるのは候補生(訓練生)でありますが、訓練を終え、修了試験に受かり、ひとたび海兵隊員なれば、たとえ部下であっても、(映画で観た範囲では)上官から、仲間として、敬意をもって扱われるようです。
この落差がギアさまの映画でも感動を生みましたが、あちらはギア様の方が上官になってしまいました。でも、映画「インスペクション ここで生きる」は部下でありながら紳士的な扱いを受けるのです。自衛隊ではどうでしょうか。
追記Ⅲ 2023.8.22 ( 訓練とは戦場の一部を疑似体験する行為か )
自動車学校で路上練習が出来るようになった初日、夜間で雨も降っていましたが、「路上を走ることは、こんなにも楽なのか」と思いました。自動車学校内のコースは狭く、クネクネと曲がり、あちこちに上り・下り坂や、踏切、車庫入れなどがあり、難しい。でも、本物の路上は、普通、あんなに凝縮した障害はないのです。直線道路を何分も走れるのです。
その代わり、本物の路上では、他のクルマや、歩行者など、路上ならではの、たくさん注意しなければならない事があります。だから、自分のクルマぐらいゆとりでコントロールできなければいけない。そんな厳しい自動車学校で練習したからこそ、初めての路上で「楽だ」と感じたのでしょう。
私は戦争も入隊経験もないので見当はずれかもしれませんが、軍隊の訓練が厳しと言われるのは、これらの映画を観ると、「戦場ではそれ以上の負荷がかかるから」という、親心のような気もします。
ならば、卒業生と上官は、すでに戦友なのかもしれません。映画「インスペクション ここで生きる」の、ラストの会食シーンを見て思いました。
追記Ⅳ 2023.8.23 ( 良い奴の証明 )
海兵隊に入るには出生証明書が要るようですね。主人公であるゲイの青年エリス・フレンチは、それをもらうために、ゲイであるという理由で自分を捨てた母に逢いに行くところから、この物語始まります。
子どもにとって母は全世界にも等しいです。だから母に捨てられるという事は、全世界から捨てられるに等しいことなのです。このトラウマは、大きく彼の人生観に影響を与えたはずです。
そして、案の定、海兵隊でもゲイという理由でイジメられます。
しかし、彼は逃げられません。彼にもプライドがあります。プライドを保つために、どうせ死ぬなら英雄として死にたいと、海兵隊員をめざすのです。
それが功を奏しました。
逃げ場のない訓練生活の中で、お互いの本性が明らかになり、「エリス・フレンチはゲイだけど、良いやつだ」という評価を、最後には仲間や上官から受けたようです。映画の原題「The Inspection」ですね。
逃げてばかりの人生では、自分を理解してくれる人は少なくなります。「石の上にも三年」ではないですが、逃げない事はすでに戦いです。心の血を流す。
映画の原題「The Inspection」、私は「良い奴の証明」とでも意訳したいです。冒頭の「出生証明書」とも符合しますね。この辺りが、映画の主題でしょうか。
追記Ⅴ 2023.8.23 ( 「逃げないという戦い」 )
「(自分を理解してもらうための)逃げないという戦い」から連想する映画には、映画「眼下の敵」、映画「逃亡者」、映画「手紙」などがあります。
映画「逃亡者」が「逃げない?」と思われるかもしれません。確かに逃亡してますね。しかし、逃亡先で出会う人が彼の人となりを知ると、多くは彼の味方になってしまうのです。その意味で言っています。又、映画「手紙」などは直球勝負でしょうね。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)
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