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レコードを聴く前に「穴」という履歴書を見る

レコードにも「ヒゲ」があります。

ターンテーブルにレコードを置くとき、センタースピンドルという突起に、レコードの穴の周囲が擦られてつく「かすり傷」のことです。それが、穴周りに生えたヒゲのように見えるのです。

初めてレコードプレーヤーを買った若い頃は、野生児のように、そんな事は気にも留めませんでした。だから、適当にターンテーブルにレコードを置くと、前後左右に動かして、偶然穴にはまるのを待っていたぐらいです。レコード針と違い、穴は丈夫です。

ところが後年、五味 康祐氏の著書・「五味康祐 オーディオ巡礼」「五味康祐 音楽巡礼」などを読み、五味氏が「自分はレコードにヒゲはつけない」旨の話を書かれているのを読み、以来、私もつけないよう努めています。

私の理解では、五味氏は、「芸術である音楽を聴くための道具にコスパを求めるのはスケベ根性である」みたいな考えを持っています。レコードのヒゲを嫌うのは、多分、「これから自分を慰めてくれるであろう芸術に敬意を払わないリスナーへの嫌悪感」なのだと思います。

ところで、近年の私は、中古レコードを買ってきて、ターンテーブルに乗せるときには、じっくりと穴周りを観察するのが楽しみの一つになっています。「LPくん、あなたはどんなじんせいをおくってきたの?」と。

すると、驚くほど、きれいなものが多いのです。多くは微かな傷が2~3本、ヒゲがほとんど見えないものも少なくなく、その中には、数百円だったのに新品!?と思う物も。前ユーザーにも五味氏レベルの達人がいらしたり、新品の売れ残りも中古市場に流通しているのでしょうか。

そんな中、TVのニュース映像だったかドラマで、クラブのDJさんが、食パンでもつかむようにレコードを片手でつかみ、皿に置くようにターンテーブルに置き、前後左右に大きく動かして、横目で穴にはめている映像を見ました。

レコードを逆回転する行為自体、オーディオ道!?から見れば異例の行為だと思いますので、DJにとって、ヒゲなどという概念は異文化なのでしょう。



(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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