#ネタバレ 映画「オケ老人!」
「オケ老人!」
2016年作品
ステージを変えると感動が生まれる
2016/12/10 7:28 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
愛知県小牧市にある田縣神社(たがたじんじゃ)は、「男根」を形どった巨大な御神体が練り歩く「豊年祭」が有名です。
この映画「オケ老人!」にはそれを思いだすような木造の男根がヒロイン・小山千鶴(杏)へのプレゼントとして登場します。
唐突感があったのでなぜかと考えてみましたが「きっとヒロインには男性のキャラが設定されているから」だと思いました。LGBTではなくキャラです。
ならば「男性なのに女性キャラが設定されている登場人物もいるはず」だと思って周囲を観察してみると、小山が密かに想いを寄せる同僚の青年が怪しいのです。
彼には、(表現は適当ではないかもしれませんが)「ヌメッとした個性」があり、料理好きで、ご飯だけでなく、お菓子作りも得意。もちろん男性でもそんな人はいますが、映画ですからこれも記号でしょう。彼は女性キャラに設定されているようです。
最近どうもそんな映画が目につきます。
この作品は「ステージ(立ち位置)を変えると感動が生まれる」と語っていたのかもしれません。引っ越しだって、転職だって、旅行だって。音楽の映画であるのも、そういう理由からなのでしょう。
杏さんは好きな女優さんですが、NHK朝ドラ「ごちそうさん」の再放送で、毎日拝見していますから、最初は、この上映画館まで出かけて・・・とも思いました。でも、さすが「杏さんパワー」。観て良かったです。年末に一本、後味の良い映画を観て年越ししたい方には特におすすめ。
★★★★
追記 ( 「落語」だと思って観る )
2016/12/10 9:09 by さくらんぼ
>…年末に一本、後味の良い映画を観て年越ししたい方には特におすすめ。
立川志の輔さんの落語に「歓喜の歌」と言うのがあって、これが年末に観るのに最適な、とても良い映画にもなっています。
映画「オケ老人!」も、「落語」だと思って観るのが、ちょうどイイ感じなのかもしれません。
追記Ⅱ ( 「選手候補」と「レクリエーション希望者」 )
2016/12/11 9:33 by さくらんぼ
たとえばスポーツクラブでは、部員を「選手候補」と「レクリエーション希望者」とに、二分割することが必要になることがあります。それが「組織と人」の存続と幸せのためです。
今回の映画に当てはめると、もちろん成長する喜びもありますが、年齢から、老人たちは「レクリエーション希望者」でしょう。「練習後の会食」が重要なポジションをしめています。「会食」をするために「音楽を方便にして集まる」と言っても良いぐらい。それは「社会参加(老人が孤立せずに社会と交わるために必要なこと)」。彼らにとっての演奏会とは、あくまでもその延長線上の行為なのです。そして、楽しくなければレクリエーションではありません。
たとえ超一流の選手やアーティストでも、ハードな練習・仕事の中に、きっと、いくらかの楽しみを感じているはずです。それが超一流の証というものではないでしょうか。もし辛いだけになってしまったら、そこはもう本当の居場所では無くなったのかもしれません。
それでも良いのです。先日、私も青春時代に楽しんだフォークギターを再開しようとして、「練習には病気になりかねないほど多量のエネルギーを必要とする」ことを実感。だから青春ドラマのように「老人をあまりしごいてはいけない」と内心心配をしていました。
でも、少し安心。
ひょんなことから「フランスから世界最高の指揮者ロンバールがやってきてオケ老人たちを指揮する『危機』」に陥るのですが、老人のリーダーが「小山(杏さん)に任せたい」とやんわり断ったのです。「割れ鍋に綴じ蓋」。その心情をロンバールも阿吽の呼吸で理解し、いっそう友情は深まりました。
こんなシーンがあったので、「監督は分かってる」と嬉しくなりました。この微妙なところが「根性一本やり」の青春ドラマとは違うところです。
追記Ⅲ ( 映画「梅が岡交響楽団」 )
2016/12/11 9:36 by さくらんぼ
映画「オケ老人!」というタイトルは、いかがなものでしょうか。字面のセンスが今ひとつですし、なにやら老人が小ばかにされた感もあります。むしろ、すなおに映画「梅が岡交響楽団」の方が上品でお客の入りが良かったようも気がします。看板娘の「杏さん」がポスターに写ってればそれで面白い映画だと万人に分かりますし。
追記Ⅳ ( いろんなエピソード )
2016/12/11 9:52 by さくらんぼ
家電製品は壊れたらゴミになるだけではありません。「ジャンク」として売られ、部品取りの対象になることもあります。さらに強者になると、ただ同然に手に入れ、何とか修理して使い続けます。
オケ老人のリーダーは家電店主でした。フランスの指揮者がラジカセの修理に来たとき、ジャンク箱から中古のコンデンサーを取りだしてすぐ直しました。「ただで良いよ!」と言って。メーカーでは古すぎて修理してくれないかもしれないし、直っても技術料1万円+部品代を請求される可能性があるのです。
それから…小山(杏さん)が狭いアパートの部屋に、むりやり防音室を入れたら、テーブルの置き場所がなくなって、しかたなく廊下に置きました。そうしたら、こんどは廊下が通れない。だからテーブルの上を越えるか、下をくぐることになりました。
以上2つのエピソードも、「ステージを変えること」がモチーフになっているようですね。
追記Ⅴ ( いろんなエピソード② )
2016/12/11 10:08 by さくらんぼ
数学の先生である小山(杏さん)は音楽を教えるのが上手くありませんでした。数学の公式みたいに細部から攻めていくからですね。そのため老人たちには全体がつかみにくい。しかし料理上手な同僚の男性は、まず音楽を聴かせることで、ざっくり全体のイメージをつかんでもらってから、つぎに細部を教えていきました。料理で味を調えるのは後半になりなすからね。だから音楽もすぐ上達した。
それから…オケ老人たちは自分の楽譜しか見ていませんでした。指揮棒なんて他人事みたいに。でも演奏会の本番、停電になり、懐中電灯の指揮棒しか見えなくなったので、音楽がまとまりましたね。
これらも「ステージを変える」お話しです。
追記Ⅵ ( 「杏 映画初主演」 )
2016/12/11 13:58 by さくらんぼ
チラシに「杏 映画初主演」と書いてありました。私など、杏さんは10年前から主演を張っていると思ってましたが、映画では初だったのですね。
追記Ⅶ ( 「最後の一葉」へのオマージュか )
2016/12/12 17:16 by さくらんぼ
小山(杏さん)はエリート集団の「梅が岡フィルハーモニー」に入るつもりが、誤ってオケ老人集団の「梅が岡交響楽団」に入ってしまいました。
若い娘が入ったと大喜びする老人集団とは裏腹に、辞めたくてもやめられない雰囲気に苦悩する小山。そのうちにナイショで両方の楽団を掛け持ちするようになりました。そうでもして夢をかなえたかったのです。
しかし、本業の数学教師の他に、楽団を2つも掛け持ちしていては体が持ちません。それに「梅が岡フィルハーモニー」はレベルが高すぎて、小山はいくらハードな練習をしてもついていけず、ついに首になってしまったのです。
失意の小山。
そんな中、オケ老人のリーダーが心臓発作で倒れます。あわててお見舞いに行った小山。
そのときオー・ヘンリーの短編・「最後の一葉」が再現されたのです。
病室のベッドから窓の外にある一葉を見つめる老人。そのとき葉が散るのです。同時に目を閉じる老人。その様子を見ていた小山は慌てて声を上げます。すると老人は目を開けて「なんじゃ。わしは今考え事をしとったんじゃ」と言いました。
あの「一葉」は誰の事なのでしょう。何を考えていたのでしょう。
「最後の一葉」では子どものために老画家が一仕事することになっています。老画家がオケ老人たちだとしたら、子どもは小山しかいないでしょう。
オケ老人たちは小山に何をしたのか。オケ老人のネットワークはけっこう凄いはず。小山はナイショにしていたつもりですが、彼らは小山が二股をかけて相手から捨てられたことを早くから知っていたのだと思います。
「割れ鍋に綴じ蓋」だけでなく、それもあって「梅が岡交響楽団」の指揮者になってもらった。そしてオケ老人たちも頑張って練習をして、失意の小山に「成功体験をプレゼント」したかったのです。きっと。
小山がラストで指揮する懐中電灯の光は、あの「ゆれる光」は、オケ老人全員で見つめた「ゆれる葉っぱ」でもあったのかもしれません。
追記Ⅷ ( 「ギャップ萌え」 )
2016/12/12 21:42 by さくらんぼ
この映画「オケ老人!」が「最後の一葉」へのオマージュならば、映画のタイトルはやっぱり「オケ老人!」で良いです。
「オケ老人!」には、ヒロインの小山がつぶやいたみたいに「カンオケ」とか、あるいは「ボケ」の意味も暗に含ませてあるのでしょう。その方が良い。
なぜなら、映画「永い言い訳」や映画「淵に立つ」みたいに「主人公を貶める」宣伝をしておいて、映画を観たら「実は…」の「ギャップ萌え」が狙えるからです。
追記Ⅸ ( 弦楽器 )
2016/12/15 18:11 by さくらんぼ
あふれる「パッション」を音で表現するのが音楽なら、逆に音のしない、まったく弾かないピアノ曲もありました。アメリカのジョン・ケージが書いた「四分三三秒」です。
ならば、「ギター」が弦楽器なら「弓矢」もそうなのではないでしょうか。こちらは「射るときの無心」を演奏する。
「弓矢」では「矢」が音符で、「的」の同心円は五線譜になります。演奏者はアドリブでそこに音符を置いていくのですが、いつも思いどおりに置けないのも味の内。
そして、それは「弓」の「バン!」という弦音(発射音)と、「矢」の「ドス!」という命中音(ただし新品の的の場合、中央よりに命中するほど「パ~ン!」と乾いた大きな音)で奏でられます。
ちなみに昔は、「ギター」だけでなく「弓矢(アーチェリー)」もあの「YAMAHA」が作ってました。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)
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