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中枢神経疾患における自律神経症候の病態生理学


序論

中枢自律神経ネットワーク(CAN)は、視床下部、辺縁系(扁桃体、前部帯状回、島皮質など)、脳幹網様体などの領域から構成される重要なネットワークです。このCANは、自律神経系の中枢的な制御を担っており、その機能は体内環境の維持に不可欠なホメオスタシスと密接に関係しています。

CANの障害により、頻脈、多汗、高血圧などの多彩な自律神経症候が現れることが知られています。特に、脳卒中患者では突然死の頻度が高く、辺縁系を構成する右島皮質の病変との関連が指摘されています。また、成人てんかん患者でも年間1.2人/1,000人の割合で突然死が報告されており、強直間代発作後の全般性脳波抑制に伴う無呼吸が主な原因と考えられています。

さらに、自己免疫性脳炎のような病態では、交感神経過活動による頻脈、多汗、高血圧などの症状が見られる一方で、手掌の精神性発汗が低下することがあり、扁桃体の障害が関与していると推察されています。

このように、CANの障害は生命予後、ADL、QOLに大きな影響を及ぼすことが明らかになってきました。CANの評価は、中枢神経系の機能理解につながり、神経疾患における自律神経症候の病態解明に新たな知見をもたらす可能性があります。


脳卒中と自律神経症候 - 右島皮質病変との関係

脳卒中患者における突然死の高頻度は、辺縁系を構成する右島皮質の病変と密接に関連していることが指摘されています。Oppenheimer らは、brain-heart axis における島皮質の重要性を提唱し、右島皮質は交感神経活動と関連が強く、左島皮質は副交感神経活動と関連が深いと仮説を立てています。

動物実験の結果では、サルでは圧受容器反射に関連する島皮質の活動が右優位に認められ、ラットでは島皮質の刺激により誘発される交感神経活動も右刺激の方が左刺激よりも強いことが示されています。これらの知見は、右島皮質が自律神経系、特に心血管系の調節に重要な役割を果たしていることを支持しています。

脳卒中患者における突然死の高率は、右島皮質の病変が交感神経系の過剰活動を引き起こし、不整脈や心突然死のリスクを高めている可能性があります。この関係の解明は、脳卒中患者の予後改善や生活の質向上につながる重要な知見となります。

脳卒中と自律神経症候 - 脳-心軸および予後への影響

脳卒中患者における自律神経症候は、脳-心軸(brain-heart axis)の障害によるものと考えられています。脳-心軸とは、脳と心臓の機能が密接に関係していることを示す概念です。特に、辺縁系の一部である島皮質が自律神経系の調整に重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。

Oppenheimer らの研究によると、右島皮質は交感神経活動と関連が強く、左島皮質は副交感神経活動と関連が深いことが示されています。このことから、右島皮質の病変が交感神経系の過剰活動を引き起こし、不整脈や心突然死のリスクを高めている可能性が考えられます。

実際に、脳卒中患者では突然死の頻度が高く、その背景には右島皮質の病変が関与していると指摘されています。自律神経症候には頻脈、多汗、血圧変動などがあり、これらは患者の予後を悪化させる要因となっています。

中枢自律神経ネットワーク(CAN)の障害に起因する自律神経症候の評価は、脳卒中患者の予後予測や治療戦略の立案に重要な意義を持ちます。CAN の機能解明は、自律神経系と心血管系の密接な関係を明らかにし、脳卒中患者の生活の質(QOL)向上にもつながると期待されます。

自己免疫性脳炎と自律神経症候 - 交感神経過活動症状

NMDAR抗体脳炎では、交感神経の過活動によって頻脈、多汗、高血圧などの自律神経症状が引き起こされることが知られている。この交感神経過活動の機序については、完全に解明されているわけではないが、いくつかの脳領域の関与が示唆されている。

外傷性脳損傷でも同様の自律神経症状が観察されており、そこでは島皮質、前部帯状回、背側前頭前野、扁桃体、視床下部、視床、脳幹、脊髄などの関与が指摘されている。これらの領域は中枢自律神経ネットワーク(CAN)の構成要素でもあり、CANの障害が交感神経の過剰な興奮を引き起こしていると考えられる。

特に、島皮質は交感神経活動と深く関連しており、右島皮質の障害が交感神経系の過活動につながる可能性がある。一方、扁桃体の障害は精神性発汗の低下とも関連していると推察される。

このように、NMDAR抗体脳炎における自律神経症状の発現には、CAN構成領域の機能障害が関与していると考えられる。個々の脳領域の役割や相互作用については今後の更なる研究が必要だが、CANの評価が自律神経症状の病態解明に重要な手がかりを提供すると期待される。

自己免疫性脳炎と自律神経症候 - 発汗異常と生活の質への影響

自己免疫性脳炎では、扁桃体などの辺縁系の障害により、手掌や足底の精神性発汗が低下することが報告されています。精神性発汗は、社会的な交流や感情表現に重要な役割を果たしており、その低下は患者の生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼします。

例えば、患者は自分の感情を適切に表現できなくなり、対人関係やコミュニケーションに困難を感じるようになります。これにより、社会的孤立や引きこもりが生じ、全般的なwell-beingの減少につながる可能性があります。

さらに、CAN障害に伴う自律神経症状、すなわち心拍変動、血圧変動、呼吸障害などは、患者の身体的・社会的機能の低下、不安の増大、QOLの全般的な低下にも関連しています。これらの自律神経症状は、日常生活動作の制限、社会参加の困難、精神的苦痛の増大など、患者のQOLを多角的に損なう可能性があります。

したがって、神経疾患患者における自律神経症状の包括的な評価は極めて重要です。CAN、特に辺縁系の機能障害が引き起こす自律神経症状の病態解明は、QOL向上につながる新たな治療戦略の開発に寄与する可能性があります。患者のQOL改善に向けて、自律神経症状の評価と、その背景にある脳内ネットワークの解明が望まれます。

結論

中枢自律神経ネットワーク(CAN)の障害に対する理解の重要性は、その多様な臨床的影響に由来します。CAN は視床下部、辺縁系、脳幹網様体などから構成され、自律神経系の中枢的な制御を担っています。CANの障害は、頻脈、多汗、高血圧などの自律神経症状を引き起こし、突然死とも関連することが知られています。

特に、脳卒中患者における右島皮質の病変や、成人てんかん患者における強直間代発作後の全般性脳波抑制に伴う無呼吸など、CAN の障害が生命予後に深刻な影響を及ぼすことが明らかになっています。また、自己免疫性脳炎では、交感神経の過活動による症状や、扁桃体の障害に起因する精神性発汗の低下など、CAN の機能障害が患者のQOLを大きく損なうことが示されています。

このように、神経疾患患者におけるCAN の評価は、単に自律神経症状の理解にとどまらず、脳内ネットワークの解明にも重要な手がかりを提供します。さらに、CAN 機能の調整を目的とした新たな治療戦略の開発が期待されます。例えば、島皮質や扁桃体などの特定の脳領域に着目した介入が、自律神経症状の管理や生活の質の向上につながる可能性があります。

今後の課題としては、CAN を構成する各脳領域の役割や相互作用の解明、自律神経症状発現の詳細なメカニズムの解明、そして個別化された治療アプローチの確立などが挙げられます。中枢神経疾患における自律神経症状の包括的な評価と、その背景にある脳内ネットワークの解明は、患者のQOL向上に大きく貢献するものと期待されます。

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