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群発頭痛 診断と治療

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序論

群発頭痛は、自律神経症状を伴う三叉神経・自律神経性の一側性頭痛です。主な特徴としては、15〜180分続く重度の一側眼窩部や側頭部の痛みと、同側の結膜充血、鼻閉、眼瞼浮腫などの自律神経症状があげられます。発作の頻度が高く、1日に2〜8回の発作があります。

発症には家族歴の影響があり、約6%の患者で一親等または二親等以内の親族に群発頭痛患者がいます。また、喫煙習慣との関連も指摘されており、慢性群発頭痛患者の最大85%が喫煙者とされています。

発症年齢は通常20〜40歳代で、男性の有病率が女性の3〜7倍高いことが知られています。群発頭痛は反復性群発頭痛と慢性群発頭痛に分類され、反復性群発頭痛が全体の80〜90%を占めています。

症状: 発作の特徴

群発頭痛の発作時の特徴的な症状は、眼窩部周辺に生じる激しい片側性の痛みです。この痛みは"針で刺されるような"と表現されることが多く、きわめて重度の痛みとされています。痛みの部位は眼窩部が最も多く(80%)、次いで側頭部、後頭部の順となります。左右差はあまりなく、日本人女性ではやや右側に多い傾向があります。

発作の持続時間は15分から最大180分程度と報告されており、同じ時間帯に繰り返し発症することが特徴的です。発作の出現時間はピークが深夜から午前3時頃とされています。

群発頭痛の発作時には、痛みに加えて結膜充血、流涙、鼻汁などの自律神経症状を伴うことが多く、患者は落ち着きなく動き回る傾向にあります。このような自律神経症状を伴う激しい一側性の頭痛発作は、群発頭痛の重要な特徴となっています。

症状: 随伴症状と周期性

群発頭痛では激しい一側性の頭痛に加えて、様々な随伴症状が認められます。代表的な随伴症状としては、不穏状態が挙げられ、わが国では患者の約70%、欧米では93%の高い割合で見られます。不穏状態以外にも、嘔気、労作による増悪、光過敏、音過敏などの随伴症状が存在します。これらの症状は片頭痛の症状とも重なるため、群発頭痛が片頭痛と誤診される一因となっています。

発作の出現には一定の周期性があり、同じ時間帯に繰り返し発症することが特徴的です。82%の患者でほぼ毎日同じ時間帯に発作が起こり、夕方から早朝にかけて、特に深夜から午前3時頃に発症のピークがあります。さらに、就寝1~2時間後や飲酒後に発症しやすいことも報告されています。また、春と秋に頭痛が多く出現することから、群発頭痛は概日リズムや概年リズムだけでなく、生活リズムとも深く関係していることがわかっています。

群発頭痛は男性に多い疾患で、男性の有病率が女性の3~7倍高いとされていますが、この理由についてははっきりとしたことは分かっていません。ホルモンの影響や生活習慣の違いなどが関係している可能性は指摘されていますが、確かな原因は特定されていません。

発生メカニズム: 三叉神経と自律神経

群発頭痛の発症には視床下部の異常が深く関与しており、特に概日リズムの中枢である視交叉上核の異常が重要な役割を果たしていると考えられています。視交叉上核から投射される線維は自律神経を制御する部位にも伸びているため、この部位の異常により三叉神経および自律神経系が過剰に活性化されると推測されています。

発作時には、視床下部の上唾液核から出る副交感神経線維が刺激され、結膜充血、流涙、鼻汁などの自律神経症状が引き起こされます。同時に三叉神経も活性化され、血管作動性物質のCGRPVIPなどの分泌が促されます。これらの物質は内頸動脈周囲の解剖学的構造物と相互作用し、更なる自律神経症状の惹起に関与すると考えられています。内頸動脈の拡張に伴い、頭部の副交感神経や交感神経が圧迫・刺激されることも、自律神経症状の一因と推測されています。

以上のように、視床下部の異常による三叉神経と自律神経の過剰な活性化、およびそれらの密接な相互作用が群発頭痛の発症に深く関与していると考えられています。三叉神経系の活動により血管作動性物質が分泌され、自律神経症状が引き起こされる一方、自律神経系の活性化も三叉神経に影響を及ぼすなど、両者は密接に関係し合っていると言えます。

発生メカニズム: 神経伝達物質と遺伝的要因

群発頭痛の発症には、様々な神経伝達物質が関与していると考えられています。中でも重要な役割を果たしているのが、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)です。CGRPは三叉神経から分泌され、血管を拡張させる作用があります。群発頭痛発作時には、CGRPの血中濃度が上昇していることが報告されています。そのため、CGRPに対する阻害剤が新しい治療薬として注目されています。

また、セロトニン(5-HT)などのモノアミン神経伝達物質の関与も指摘されています。セロトニンは三叉神経の活動を制御していますが、群発頭痛患者ではセロトニン代謝産物の減少が見られます。トリプタン製剤は5-HT受容体作動薬であり、群発頭痛の急性期治療に用いられています。

一方、遺伝的要因も群発頭痛の発症に影響を与えていると考えられています。約6%の患者で一親等または二親等以内の親族に群発頭痛患者がいると報告されており、一定の遺伝的素因が存在すると推測されます。ただし、群発頭痛の原因遺伝子は特定されておらず、複数の遺伝要因が関与している可能性があります。

環境要因としては、喫煙習慣との関連が指摘されています。慢性群発頭痛患者の最大85%が喫煙者であったという報告があり、喫煙が群発頭痛の発症や慢性化に影響を及ぼしている可能性が示唆されています。その他の環境因子としては、ストレスや睡眠障害なども群発頭痛の増悪因子となる可能性があります。

このように、群発頭痛の発症には複数の神経伝達物質が関与しており、遺伝的・環境的要因とも密接に関連していると考えられています。今後さらに病態解明が進めば、より効果的な治療法の開発が期待できます。

鑑別診断

群発頭痛は特徴的な一側性の激痛と自律神経症状を呈する疾患ですが、正確に診断されにくい面があります。他の頭痛疾患との鑑別が極めて重要となります。

まず片頭痛との鑑別が重要です。群発頭痛は男性に多く、片頭痛は女性に多いという性差が大きなポイントです。また、群発頭痛は短時間の15分から3時間続く発作が特徴的ですが、片頭痛は4時間から3日間と長時間持続します。頭痛時の行動も異なり、群発頭痛患者は落ち着きなく動き回りますが、片頭痛患者は暗い静かな部屋で休息を取ります。痛みの部位も群発頭痛は主に一側性ですが、片頭痛は両側に及ぶこともあります。

さらに、二次性頭痛との鑑別も重要です。頭部MRIなどの画像検査で器質的疾患を除外する必要があります。欧州神経学会のガイドラインでは、60歳以上の患者や非典型的所見がある場合は、CTによる頭蓋底の撮像や脳脊髄液検査、動脈病変の検査も推奨されています。

群発頭痛では診断が遅れがちで、半数以上の患者が誤診されている現状があります。患者の行動パターンや痛みの性質を詳細に聴取し、年齢や症状の非典型性にも注意を払いながら、画像検査を含む入念な診察が必要不可欠です。鑑別診断の重要性を認識し、適切な検査を行うことで、群発頭痛の正しい診断と治療につながります。

治療法: 酸素療法とトリプタン製剤

群発頭痛の急性期治療として、酸素療法とトリプタン製剤が推奨されています。

酸素療法は、高濃度の酸素(100%酸素、12L/min)を20分間投与することで、発作時の頭痛を軽減させる効果があります。この治療法は基本的に禁忌はなく、安全性が高いことが特徴です。酸素投与後20~30分以内に痛みが減少する患者が多いとされています。酸素療法の作用機序は完全には解明されていませんが、酸素投与による脳血管の収縮が関与していると考えられています。

一方、トリプタン製剤は5-HT1B/1D受容体作動薬であり、皮下注射やその他の投与経路で使用されます。スマトリプタン6mg皮下注射では、投与15分後に74%の患者で頭痛が軽減し、36%の患者では10分以内に無痛となります。このように、トリプタン製剤は発作時の頭痛を迅速に軽減させる効果があります。その作用機序としては、三叉神経の活動を抑制し、血管拡張性物質であるCGRPなどの放出を抑制することで、鎮痛効果を発揮すると考えられています。

以上のように、酸素療法とトリプタン製剤は異なる作用機序で群発頭痛の急性期治療に有効ですが、どちらも発作時の痛みを速やかに軽減させることができる治療法です。

治療法: 新規治療薬と神経刺激療法

群発頭痛の新規治療薬としてCGRP関連抗体薬が注目されています。CGRPは三叉神経から分泌される血管拡張性物質であり、群発頭痛の発症に重要な役割を果たしています。ガルカネズマブは、CGRPを標的とした初めての抗体医薬品です。反復性群発頭痛患者を対象とした臨床試験では、ガルカネズマブの投与により群発頭痛の発作頻度が有意に減少しました。3週間の観察期間中、ガルカネズマブ群では1週間あたり平均8.7回の発作が減少し、プラセボ群の5.2回を上回りました。また、発作頻度が50%以上減少した患者の割合もガルカネズマブ群で71%と高い値を示しました。しかし、慢性群発頭痛に対する有効性は確認されておらず、今後の検討が必要です。ガルカネズマブの主な副作用は注射部位の反応などで、全体的に忍容性は良好でした。

一方、神経刺激療法も群発頭痛の新しい治療選択肢の一つとなっています。翼口蓋神経節刺激療法は、顔面に埋め込んだ装置で翼口蓋神経節を刺激し、68%の患者で有意な鎮痛効果が得られました。しかし、一時的な感覚喪失などの副作用も認められています。後頭神経刺激療法でも、慢性群発頭痛患者の66.7%で頭痛回数が50%以上減少するなどの効果が報告されています。最も一般的な副作用は局所の疼痛や創傷治癒遅延でした。さらに、反復性群発頭痛の急性期治療として、非侵襲的迷走神経刺激療法が認可されており、頭痛消失率47.5%、50%反応率64%と高い有効性が示されています。

このように、群発頭痛の新規治療薬や神経刺激療法は、従来の治療法に加えて新たな選択肢を提供しています。より多くの患者さんに有効な治療を届けるためにも、今後さらなる治療法の開発が期待されています。

結論

群発頭痛は、非常に激しい頭痛発作と自律神経症状を伴う疾患であり、患者の生活の質に深刻な影響を及ぼします。発作時の強い痛みと症状は、日常生活や仕事に支障をきたし、患者の社会生活を制限してしまいます。また、痛みの恐怖から不安やストレスを抱えるなど、精神的な負担も大きくなります。

このように、群発頭痛は患者の生活を著しく阻害する疾患であり、適切な診断と治療が非常に重要になります。しかし、症状の非典型性から誤診されやすく、半数以上の患者で初期の診断が遅れているのが現状です。そのため、詳細な病歴聴取と入念な検査を行い、他の疾患との鑑別を慎重に行う必要があります。

一方で、群発頭痛の発症メカニズムはいまだ完全には解明されておらず、治療法にも課題が残されています。従来の酸素療法やトリプタン製剤に加え、CGRPやカルシトニン遺伝子関連ペプチドを標的とした新規治療薬や神経刺激療法が登場していますが、さらなる治療選択肢の拡充が求められています。今後、病態の解明が進み、より効果的で副作用の少ない新規治療法が開発されることで、患者さんのQOLがさらに改善されることが期待されます。

群発頭痛は生活に深刻な影響を及ぼす疾患ですが、適切な診断と治療によってコントロールできる可能性があります。この疾患への正しい理解を深め、新たな治療法の開発を推進することが重要な課題となります。

質問と回答

  1. 群発頭痛の症状にはどのようなものがありますか?

    • 群発頭痛は通常、一側の激しい痛みや結膜充血、流涙、鼻閉、顔面の発汗などの自律神経症状を伴います。

  2. 群発頭痛の診断基準はどのようになっていますか?

    • 診断基準には、重度の一側性の痛みが15~180分持続すること、同側に自律神経症状が見られることが含まれます。

  3. 群発頭痛の多くはどのような年齢層に見られますか?

    • 群発頭痛は主に20~40歳の男性に多く見られ、女性は3~7倍の有病率があります。

  4. 群発頭痛はどのように分類されますか?

    • 群発頭痛は反復性群発頭痛と慢性群発頭痛の2つに分類され、反復性の場合は1年以内に発作と寛解を繰り返します。

  5. 群発頭痛を引き起こす主な誘発因子は何ですか?

    • 主な誘発因子には飲酒、天候の変化、強い匂い、明るい光があり、特に52%の患者が飲酒後に頭痛を経験します。

  6. 群発頭痛の治療法にはどのようなものがありますか?

    • 急性期治療には酸素投与やトリプタンの使用が推奨され、予防療法にはベラパミルが用いられます。

  7. 群発頭痛の発作の頻度はどのくらいですか?

    • 発作の頻度は1日2回から8回程度とされ、発作は通常、同じ時間帯に繰り返して現れます。

  8. 群発頭痛と片頭痛をどのように区別しますか?

    • 群発頭痛は一側性の激痛が短時間で現れ、患者は動き回ることが多いのに対し、片頭痛は多くの場合、暗く静かな場所で安静にしたがります。

  9. 群発頭痛が与える日常生活への影響はどのようなものですか?

    • 群発頭痛は日常生活に大きな影響を及ぼし、特に仕事や社会生活に支障をきたすことがあります。

  10. 群発頭痛の診断において注意が必要な点は何ですか?

    • 群発頭痛は誤診率が高いため、他の二次性頭痛などとの鑑別が重要であり、神経診察やMRI検査が推奨されます。

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