新型コロナの虫送り
10年ほど前に、埼玉県皆野町の「虫送り」を撮影したことがあります。今年は行われるでしょうか。
虫送りは、3本の「オンベイ(御幣)」を持って村を練り歩き、害虫の悪霊を呼び寄せ、村の外へ出してしまい、村の安泰を祈願する行事です。
オンベイというのは、神霊の依代で、竹竿の先に幣を取り付け、その下に七夕飾りに使った色とりどりの短冊をつなぎ合わせて作ったもので、高さは5mほどあります。
害虫には、いろんなものが含まれるようです。農作物の害虫はもちろん、疫病神なども、すべて災いを招くものを「虫」として呼び寄せます。今年なら「新型コロナの虫」も含まれるかもしれません。
昔は、最後にこのオンベイを、村外れの谷川に流し、村の安泰を願っていましたが、今は、流せなくなった(流さなくなった)とのこと。
それを聞いて、今はそんな時代なんだなぁと思ったものです。別な灯篭流しの祭りでも、下流にボランティアが待機していて、流れてきた灯篭を全部回収することをわざわざアナウンスしていました。だから流さないでと。
物を勝手に川に流せないんですね。物だけではありません。「悪霊」「災い」も流せなくなったということです。昔なら、「虫」にみたてた「悪霊」「災い」を村の外に出してしまえば、村の中の安泰は保てました。
でも、意地悪な見方をすれば、「虫」を村外に出すということは、他の村(下流の村)がその「虫」の被害に遭うかもしれないことになります。
つまり、今の時代、災いは、その村だけで解決すれば良いという問題ではなく、災いは、すべての村(あるいは物)が大なり小なり何らかの関係性を持っているということでもあります。
村から町、県、そして国、世界へと、俺たちの生活範囲は広がっているのに、「新型コロナの虫」に関しては、まるで村の「虫送り」に逆戻りしているような感じを受けます。外からの「新型コロナの虫」が自分の村(町・県・国)に入ってくるのを心配しています。
でも、「新型コロナの虫」が自分の村(町・県・国)からいなくなっても、別なところにいる限り、平穏な生活は戻ってきません。つまりこの「新型コロナの虫」送りは、全地球規模で、みんなで協力してやらなければならないことです。
にもかかわらず、今は、外からの人間を「虫」扱いせざるをえない状況です。観光業で潤っていたはずの観光地が「来ないで」と言うところもあります。罹った人間に対する誹謗中傷も止まりません。人をウイルス扱いする客や店員のレジハラも起こっています。「人間」が「虫」ではなくて、「新型コロナウイルス」が「虫」なんです。
新型コロナの一番怖いところは、人間関係を分断するところにあるようです。
そこで、虫送りを復活させてみてはどうでしょうか。
オンベイをロケットに載せて宇宙に放つのが、現代版の「虫送り」としては一番の方法かもしれません。実際やるのは難しいですが、その代わり「花火」があります。その象徴的な儀式として、これを「虫送り」に見立てればいいのではないかと。
それとも椋神社の「龍勢」でしょうか。こちらはまさに竹製の「ロケット」なので、「宇宙に放つ」イメージと合致するような気がします。
こういう儀式は象徴的なものです。これで人間が「虫=ウイルス」でないことの感覚を取り戻すことができたらこの「虫送り」という民俗も役に立つのかなと思います。