読むより見たほうが早い
『落語特選〈上〉』 (編集)麻生 芳伸 (ちくま文庫)
図書館本で返却期間が来てしまったのでとりあえず感想。つまみ食い程度の読書。正月に落語を聴こうと思い借りたのだが実際に動画を聞いてから本文を読む感じに。そんな中で年末に見た川島雄三監督『幕末太陽傳』の中に『品川心中』があったとは新たな発掘だった。落語『居残り佐平次』(本編には未収録)を元にしているのは知っていたのだが。他に『三枚起請』もあった。川島雄三監督の落語好きが伺えた(この本とは関係ないけど)。その他『大山詣り』が面白かった。
創作の為のアイデアとして読み始めたがこれが面白くって、創作どころではなくなった。
「品川心中」
人気芸者から心中の誘いの手紙を貰い答えてしまう貸本屋の金蔵。しかし死ぬことの決心がつかない金蔵だったが屋台船に乗って海に飛び込もうと誘われ、ついに心中しようとするところを金蔵だけ突き落とされる。芸者の謝金の返済の肩が付いたと知らせがあったのだ。後から追いかけていくからと言ったが果たされず、金蔵は死にそうになりながら海から上がる。
その後悲惨な復讐譚となるということだが、川島雄三監督『幕末太陽傳』がこの落語を元にしているとは、知らなかった。金蔵役が小沢昭一で芸者のお染は左幸子だったとは。後で見てみよう。
「大山詣り」
元ネタは狂言。それには『大山詣り』は道行があったのだが、落語の方はすでに「大山詣り」を済ませた後の話だった。酒癖の悪い熊こうを連れて行ったばかりに宿で喧嘩になり、寝ている間に坊主にして置き去りに。それに腹を立てた熊さんの復讐譚。帰って亭主たちはみんな死んだことにして、女房に出家を進め坊主にするという話。読書メーターで女を坊主にする話は笑えないとあったが、落語の世界も男尊女卑だからな。
「三枚起請」
これも『幕末太陽傳』に盛り込まれていた落語だった。人気芸者が客の男に「起請文」を書く。それは芸者を辞めて夫婦になるという誓いの手紙であり、正規のものには熊野神社に鴉の宝印が押されているほどの神にかけた誓いなのである。それを一人の男だけではなく、三人の男に書いたという設定の落語。ラストの締めが高杉晋作の都々逸、
♪~三千世界の鳥を殺し、ぬしと朝寝がしてみたい」
と歌うのを「ぬし」を抜いてオチに使っている。それは「起請文」を一枚書くことに熊野権現の鴉が三羽死ぬということらしい。
『幕末太陽傳』では佐平次が高杉晋作と一緒に風呂に入ったときに歌うのだ。そして、父と息子が人気芸者から「起請文」を貰って騒動になるという展開だった。
「らくだ」
落語には冠婚葬祭でも葬の話は多いという。これもそんな長屋の葬儀の話。ヤクザものがふぐの毒で死んでしまい兄貴分の男が取り仕切る葬儀。屑屋に無理難題を押し付けるのだが、それを実行に移すという不条理劇。死者の踊り「かんかん踊り」が落語家の見せ所なのか、You Tubeの三遊亭圓生を見た。