60年代の重いテーマをコミカル・ドラマで呼び出すマジック。
『コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話』(2022年製作/121分/PG12/アメリカ)【監督】フィリス・ナジー 【キャスト】エリザベス・バンクス,シガニ―・ウィーバー,クリス・メッシーナ,ケイト・マーラ,ウンミ・モサク,コーリー・マイケル・スミス,グレイス・エドワーズ,ジョン・マガロ
似たような作品にノーベル賞作家アニー・エルノー原作の『あのこと』という映画があったのだが、フランスとアメリカでは同じ中絶を扱うにしてもずいぶん見せ方が違っていた。
アメリカ映画は、最初は保守的な主婦が出てきてドラマっぽい作りなのだがフランス映画のようなリアリティに欠ける映画だと思っていたのだが。観ているうちに惹きつけられて、映画が一つの教育というか、そういう現実もあったと教えているようだった。それは今の時代の保守的な主婦に対しての喜劇的な風刺ドラマを観るような感覚なのかと思った。
どう考えても保守的な弁護士の妻(法を遵守する夫の妻なのだ)が中絶という当時の違法に関わっていくストーリーが面白く描かれているのだ。それはリーダーの女性をシガニー・ウィーバーが演じているのが魅力的なのか?1968年の社会運動家の古参という女性闘志であるのだけど、彼女は男社会での社会運動に女性の自由はなかったと感じていたのだ。今のフェミニズムの走りのようで面白かった。
それは彼女をリーダーとして、黒人運動家の女性(ブラックパンサー支持の過激な女性)もいれば、主人公のように弁護士の妻であるような保守層や、修道院の尼さんまでが多様な女性が集っている違法中絶手術の組織なのである。その借りの名が「ジェーン」という仮名であり、その脚本がまず上手いと思った。
フィクションであることで、一人の保守的な主婦がどうして違法組織に属するかというより、もはやその中心となってしまう物語なのである。まさに一人の保守的な主婦の成長物語を描いているのだが、それが当時のポップスナンバーのような明るさで描かれているのだった。なによりもあの当時の音楽が素晴らしい。
ラストで「レット・ザ・サンシャイン・イン」が流れるのも現代風にアレンジされたものだったのか?映画も現代風にアレンジされているような気がした。
そこに60年代ポップスの明るさとお気楽さの中に違法中絶という重いテーマを見事にポップな感じで描いた映画なのであった。