見出し画像

シン・現代詩レッスン53(八月の詩)


百人一詩

百人一詩(40まで)

白衣の異人

白衣の異人(シン・現代詩レッスン44)

今日も金を恵んでもらいたいと座っている。
汚れたTシャツの絵はロックスター
しけた顔の目が突き刺す
駅への乗降客は蔑んで一瞥もしない
子供たちが物珍しそうに彼らについて質問する。
ママ、あの人どうしちゃったの?

迷路を嘲笑う腹いっぱいの男はお前だ。
べとついた汗で隣の女を抱きかかえるゴースト
二人の道化芝居、それを観察する男の視線
この世がもう一度ひっくり返ったらいい。

合わせ鏡

それは彼のゴーストだった。それは
何も語りはしない。
その残像だけを空白のページに埋めていく
彼はその虚空の下に立つのだろう

長編詩の試み。最初の一行は
「ママ、あの人どうしちゃったの?」
最後の一行は
「缶の中の小銭は盗まれた」
題は「みなとみらいの駅の片隅で」にしよう。(未完)

在日

在日(シン・現代詩レッスン45)

俺は東京の生まれでも大阪の生まれでもない。
多くの在日と同じように半島からやってきた。それは島の場合もあるのだろう。俺の親父はそれより早かった

それで俺は彼女に答えた。ああ、
知っていたよ。キムが済州島出身だということも。逃げてきたんだ。
弱ちょろい親父とたくましいお袋と。それでアイツが生まれたのさ。
大阪でもなく、ソウルでもなく、済州島でもない、東京という外れの町で。
だからアイツは俺の兄弟だったんだ。父親も母親も違うけどな。たまたま生まれた場所が東京の外れの町で。

歌(シン・現代詩レッスン47)

お前は歌ふなと言いながら歌ふ
赤まゝの花やとんぼの羽根は歌わないが
ひよわなものは歌ったのだ
それは人だろうか?
お前自身の弱さを歌ふ
最初からその過ちに気付いているはずだ

逆説的に歌はねばならない歌は
威厳に満ちて威風堂々とするが
お前が歌ったのはそんな歌であるもんか
恥辱のなかでのたうち回る息でもって
喉仏の奥に異物が引っかかりながらも
声に出せない声を絞り出すのだ
その声は自らの胸廓に響いているのだ

青春18きっぷ

青春18きっぷ(シン・現代詩レッスン48)

青春を取り戻すんだ
ケチな旅行じゃねえか

な、青春を取り戻すんだ
ケチを付けるのはお前じゃないか

エントロピーに逆らって
おいらは四国遍路だ
逆回りで弘法大師に出会うんだ

青春を取り戻すんだ
ケチな旅行じゃねえか

新・夜叉ヶ池

新・夜叉ヶ池(シン・現代詩レッスン46)

かっぽれ かっぽれ
からっぽのおれたちはこうしんす
どこへむかうかじゅんれいのたび

ひとをもとめて かっぽれ
おとこをもとめて かっぽれ
おんなをもとめて かっぽれ
にんげんをもとめて
かっぽれ かっぽれ

へいわのこうしん 虹のパレード
おや 蛇太郎もついていくかい
しきるのはあたしだよ
夜叉ヶ池の修羅雪姫とは私のことさ

かっぽれ 拾っていくよ
人間ではない魂を
かっぽれ かっぽれ
空っぽのこの身体に
七色の妖怪たち、
かっぽれ、蛇太郎
かっぽれ、蟹五郎
かっぽれ、鯉七
かっぽれ、鯰入道
かっぽれ、名無し男
かっぽれ、名無し女
そして、修羅雪姫が
かっぽれ 御旗を立てる
巡礼の旅

鏡花墓仕舞い(狂歌五首)

鏡花墓仕舞い(シン・現代詩レッスン49)

鏡花忌にお参りするやお隣さん田中さんから願い伝えて

もののけは墓がなくとも儚(はかな)しや雑司が谷から夜叉ヶ池まで

白雪の案内嬢はパートなの深夜バスまでもののけガイド

かっぽれかっぽれかっぽれなあ今夜はねこバスかっぽれなあ

夜叉ヶ池にダイブする蟹・鯰・鯉・姫・巳・余所者がいる

修羅雪姫

修羅雪姫(シン・現代詩レッスン51、シン・現代詩レッスン50)

薄明の夜明け前の静寂、白雪よ
白蛇を首に巻き蛇の真紅の舌から滴る血の匂い
吸血の修羅雪は、極悪入道に囲われし白拍子、
殿上人を切り捨てし極楽に誘ふ
ぬばたばの闇から浮かぶ白の舞ひ、舞ひ、………

満州の馬賊の紹興酒より、阿片より、花びらの入った酒より、
白雪舞へば、男は倒れ、首が飛ぶ、
修羅雪
おまえに向かって、僕のペニスはそそり立ち、返り刃となって意識が飛ぶ。
おまえの目は、赤く射抜くように、僕の倦怠を見抜き、血の貯水池となる。

夜明けの赤目女は誘ふ、しばしうたたね しばし下層へ
嗚呼!まどろむ光の渦よ、鬼神は鈴のでうたふ
ぼくは舟唄にゆれながら、白雪を四度目に抱き力尽きた

二人の貴人の間に漂う宇治の川
激流は白雪を転覆させ、
死者の形代と成仏出来ない此岸に
鬼の化身で姿を表す修羅雪男を窮地に追いつめ、
寝首をかき切れ、
修羅しゅしゅしゅ

二つに裂かれた快楽の舌は男と獲物を喜ばす
  あなたのために舌を這わせる白雪
隠された毒牙は男の肩にしなでかかり寝首を伺う
  あなたのための毒牙はゆっくり修羅雪

黒々とした髪は首にまとわりつきあなたの息を止める
  鼻腔にクロロフォルムの白い布
白い柔肌はどこまでも冷たく絡みつく
  直に熱いキスがご褒美と首筋に毒牙の跡

オン・ザ・ロックの氷を身体に這わせる
  あなたはすでに死者なのだから
あたたの柔らかすぎる皮膚を噛む
  わたしの口からあふれ出る血

あなたが感じる獲物としての諦念
  捧げ物としては立派な態度
あたたの虚空の瞳に白い蛇
  わたしの口から温かい血


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?