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鉄格子紙の月より冬の月

Art Pepper『Winter Moon 』(1981)

Art Pepper – alto saxophone; clarinet on "Blues in the Night"
Stanley Cowell – piano
Howard Roberts – guitar
Cecil McBee – bass
Carl Burnett – drums
Nate Rubin - violin, concert master
Mary Ann Meredith, Sharon O'Connor, Terry Adams - cello
Audrey Desilva, Clifton Foster, Dan Smiley, Elizabeth Gibson, Emily Van Valkenburg, Greg Mazmanian, John Tenney, Patrice Anderson, Stephen Gehl - violin

リー・コニッツと来たらもう一人の白人ジャズ・ミュージシャンでこの人を取り上げなければなりません。日本での人気はリー・コニッツよりも上でアルト・サックス奏者でも一番かもしれません。それはマイルス・カルテットのリズムセクションとやった『ミーツ・ザ・リズムセクション』の圧倒的な人気なのでしょう。

今回紹介するのはそんな全盛期の演奏ではなくて、晩年の冬の時期、季節的にちょっと違うかもしれませんが、今日が満月ということで『ウィンター・ムーン』を紹介します。このアルバムは長い間アート・ペッパーが薬物で苦しんでカムバックした晩年の作品ではあるのだけれど、大抵のジャズ・ミュージシャンはカムバックしてもよれよれで人生はそうだよね、と感慨に老けてしまう演奏なのですが、ここでのペッパーは違います。むしろビルドアップして鍛えてきた音と言ってもいい。

ジャズ・ミュージシャンに取ってストリングスをバックに演奏することは何よりも栄光とされています。チャーリー・パーカーしかりクリフォード・ブラウンもストリングスの名盤を残していますが、一番の隠れ名盤はこのアルバムだと思います。

アート・ペッパーは、先にも書きましたが麻薬中毒で何度もジャズ生命を絶たれました。ジャズミュージシャンの麻薬をよしとする環境、白人プレイヤーであるコンプレックス、過去の栄光と現在の挫折。そうしたものが薬やアルコール依存に走らせたのです。それでも彼は何度も日本に呼ばれて、日本の熱狂的な歓迎に見事なカムバックを果たします。


"Our Song"最初の一曲目から後期のペッパーの暗いけど力強い骨太アルトが冴え渡っています。よく全盛期のペッパーとカムバック後のペッパーどちらがいいかと話題になりますが、時間はこんなにも人格に変化をもたらすものとして好例がアート・ペッパーでしょうね。どっちもアート・ペッパーだけど現在と過去は違う。共演者も違うし時代も違う。

"Here's That Rainy Day"オリジナル曲の後にスタンダードで昔のペッパーの面影が感じられます。それでも切々と演奏している様は、昔はなかったかもしれないです。アート・ペッパーは即興演奏の天才プレイヤーだったので軽快に吹くことを信条としていたのでした。

"Winter Moon"タイトル・ナンバーはスタンダードでもないですけどアート・ペッパーの切々と歌うアルト・サックスが魅力的な曲ですね。まさに冬空にぽっかり浮かぶ満月のような輝きで。

"Prisoner (Love Theme from Eyes of Laura Mars)"でも一番の演奏はこの「プリズナー」でしょう。ペッパーの収容所生活が垣間見れるような激しい心の痛みをアルトサックスに乗せています。ときにはフリーキーに、次第にエモーションが増していき最後は絶叫が響き渡るような。ストリングスをバックにこの演奏です。彼の自伝そのものの演奏です。

(ジャズ再入門vol.28)

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