兄弟監督が偽姉弟の映画を撮ったら祈りの映画だった
『トリとロキタ』(2022/ ベルギー・フランス)監督ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 出演パブロ・シルズ/ ジョエリー・ムブンドゥ/ アウバン・ウカイ/ ティヒメン・フーファールツ/ シャルロット・デ・ブライネ/ ナデージュ・エドラオゴ
ダルデンヌ兄弟は映画界三大兄弟かな。コーエン兄弟、カウリスマキ兄弟か?その中でもドキュメンタリータッチの映像の社会派監督の作品は、どの映画も切ないほど心に訴えかける。それは子供の不条理さを描いた作品であり大人は誰も責任を取ることがないからだ。
この映画でもトリとロキタの関係は本当の姉弟ではない関係でどこで出会ったかは描かれておらずいきなり姉弟のような信頼感で結ばれているのだ。それはロキタ(姉代わり)は身体が弱くベルギーへ来たのも幼い弟や母に仕送りする為であり自己犠牲的な不法滞在者なのだがトリの方がどうしようもない子供で本国からは追放されているからベルギーの市民権を得たというように逆転している。そのことでビザが欲しいロキタがトリを弟だと主張するのだが認められない。
それでもロキタはヤバい仕事(麻薬の売人)などをしながら国の母に仕送りをしているのだが、トリを学校で学ばせこの境遇から抜け出る道も求めているのだ。
それでも身寄りのない二人に社会は冷酷であり、その分二人の絆が強まっていくという映画だ。こういう映画は無理にお涙頂戴のパターンになりそうなのだが、現実社会のリアルな部分、例えば彼らが稼げるのは危ない仕事しかないとか。大人は誰も救いの手を差し出さない社会であるとか。社会の冷酷さを描いた映画ではあるのだが。
それでも暗いばかりの印象を受けないのは二人が歌う歌の力にあるのだと思う。それは彼らに希望と勇気を与えてくれる幻視の世界なのだ。現実の別の世界が二人の中に描かれているから悲劇的な結末の中にも祈りの世界があるのだ。それはキリスト教的なものなのかもしれない。