上海の「サタデー・ナイト・フィーバー」というスパイ映画
『サタデー・フィクション』(2019年/中国/126分)【監督】ロウ・イエ 【キャスト】コン・リー,マーク・チャオ,パスカル・グレゴリー,トム・ブラシア,ホァン・シャリー,中島歩,ワン・チュアンジュン,チャン・ソンウェン,オダギリジョー
ロウ・イエの映画はけっこう好きなのだが、これは国策映画かと思うような作品だった。第二次世界大戦前の香港租界でのスパイ合戦映画。スパイ映画だけどアクション(銃撃戦がメイン)のような。モノクロ映像は雰囲気作りなのか、コン・リーの老いを隠すためだったのか?日本だと『リボルバー・リリー』の綾瀬はるかのポジションなのかな?
まあコン・リーを迎えてのヒロイン映画ということろだろう。ストーリーはちょっと複雑で劇中劇が現実(当時の上海)とリンクするので、その演劇の部分が横光利一『上海』だったのだ。また本が読みたくなる。スパイ映画のエンタメ部分はイギリスに留学経験のある中国の人気作家らしいのだが、普通にアクション映画だった。面白いのは劇中劇との絡ませ方なんだけど、その部分はちょっと退屈してしまうかもしれない。
もう一つコン・リーのヒロインは同性愛者でもあるのだった。そこがクィア映画としてもっと面白く出来たと思うのだが、通常の男女間のラブ・ロマンスとなってしまった。そこがもったいないと思った。あと中国のこういう映画の日本人はやたら大声を張り上げて威嚇する男ばかり出てくるのだ。スパイ映画としては『陸軍中野学校』のような映画を期待したのだが、普通にエンタメアクション映画だった。
題名もあれだよな。「サタデーナイトフィーバー」に掛けているのか?ダンスシーンが確かにあった。横光利一の『上海』は読みたいと思った。
追伸。勘ぐれば悪徳プロデューサーは現実世界でもありうるかもしれない。ロウ・イエの前作はかなり反権力的作品だったのである。
何よりも「天安門事件」を背景とする映画を撮っているロウ・イエは中国の国家権力からもマークされている監督だろうと思われる。そしてそんなロウ・イエにプロデューサーが国民的な人気女優とのエンタメ映画を持ちかけてきても不思議はないのかもしれない。実は現在の中国映画の舞台裏をも描いたのかもしれない。