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風呂場で寛ぎたい人は別の映画を
『アンダーカレント』(2023年製作/143分/G/日本)監督:今泉力哉 出演:真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太
「愛がなんだ」「街の上で」の今泉力哉監督が真木よう子と初タッグを組み、フランスを中心に海外でも人気を誇る豊田徹也の長編コミック「アンダーカレント」を実写映画化したヒューマンドラマ。
かなえは家業の銭湯を継ぎ、夫・悟とともに幸せな日々を送っていた。ところがある日、悟が突然失踪してしまう。かなえは途方に暮れながらも、一時休業していた銭湯の営業をどうにか再開させる。数日後、堀と名乗る謎の男が銭湯組合の紹介を通じて現れ、ある手違いから住み込みで働くことに。かなえは友人に紹介された胡散臭い探偵・山崎とともに悟の行方を捜しながら、堀との奇妙な共同生活の中で穏やかな日常を取り戻していくが……。
謎の男・堀を井浦新、探偵・山崎をリリー・フランキー、失踪した夫・悟を永山瑛太が演じる。「愛がなんだ」の澤井香織が今泉監督とともに脚本を手がけた。
『アンダーカレント』という漫画の原作があるということだが、ジャズ好きとしてはビル・エヴァンス『アンダーカレント』を連想してしまう。特に水の中の死体をイメージするシーンは。たぶん監督もそうなのかと思った。
風呂映画としては宮沢りえ主演の『湯を沸かすほどの熱い愛』があり、こちらは純粋なる風呂映画でほっこり温まる感じだが、『アンダーカレント』は逆を行く。水風呂かと思うほど冷えきっている映画なのだ。
宮沢りえと比較しても真木よう子のクールなイメージ。それに何ともモヤモヤ男優代表のような井浦新に、さらに引っ掻き回し役のリリー・フランキーが出ていて、一番の謎なのは突然失踪する永山瑛太なのだが、監督の雰囲気に一番近いのかもと思った次第である。誰もが嘘の生活の中で生き続け、過去を断ち切って逃亡したいと願うだろう。そう願わない人にはいまいちの映画だと思うので『湯を沸かすほどの熱い愛』を見ることを勧める。
永山瑛太と真木よう子が離婚話をするときに「本当のこと」について確認をするのだが、今まで嘘の人生を辿ってきた永山瑛太には「本当のこと」が何かわからない。アイデンティティの問題だと思うのだが、それは彼には役割にしか過ぎなかった。例えばかなえとの結婚生活も夫という役割だったのだが、風呂屋継続、子供、生活と重しが増えると逃げ出したくなってしまう。その回想シーンの蛙は印象的である。芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」だったのだ。彼にとっては「古池」が「風呂屋」だった。しかし定住できない彼だったのだ。
真木よう子のトラウマは、本人以外に解決しようがないことだった。それを瑛太が演じる夫・悟に求めても無理な話だった。深層心理の底流に流れる罪の意識がポイントになっている。それは少女暴行殺人事件という重い事件が背後にあるのだ。この部分がかなりハードな話になってくるのだが、それが見た目にとりあえず事件の兄という設定の井浦新を登場させて、死んだ妹代わりにするというのはかなり安易なラストだと思うが、その底流にまだまだ解決されない闇の世界が潜んでいるのだろう。
風呂映画というより冷たい湖映画だったのだ。