見出し画像

儚さや即興演奏の露の音

山下洋輔トリオ『クレイ』1974年ドイツのメールス
山下洋輔ピアノ、坂田明アルトサックス・アルトクラリネット、森山威男ドラム


昨日の映画『きみの死んだあとで』を観て、聴きたくなった山下洋輔トリオの傑作。日本のフリージャズを世界に知らしめた一枚。トリオと言っても山下洋輔のピアノ、坂田明のアルトサックス、森山威男のドラムと変則的な構成。通常ならベーシストがいるのだが、ベースの部分はピアノでカバー出来るし、何よりスピード感を求めたのかもしれない(あくまで推測)。

山下洋輔といえば「バリケードの中のジャズ」で一躍全国区に知られるようになる。田原総一朗プロデュースのドキュメンタリー番組で学生運動が華々しかった頃にバリケードの中でフリー・ジャズを演奏した。当時の演奏は『DANCING古事記』としてアルバムに残されている。またYou Tubeでもその映像が観られる。

『Clay』はモハメッド・アリの英語名。黒人にとっては奴隷の名前だとして、イスラム名に変えたのがモハメッド・アリだ。当時の黒人の公民権運動と政治的行動を示したのがモハメッド・アリだ。そのアリ(カシアス・クレイ時代のソニー・リストンとの試合だろうか?)のボクシングを彷彿させるようなスピード感あふれる演奏は、ドイツのメールスジャズ祭で絶賛されアルバム化された。

まず圧倒されるのが森山威男のドラム。日本にこんな凄いドラマーがいたのかと思ったに違いない。そして山下洋輔の破天荒なピアノ。一曲目「ミナのセカンド・テーマ」はスタジオ録音盤が出ていた。フリージャズだけどテーマはあるのだ。即興演奏という一回生のドキュメンタリーであるライブ録音だが、アルバムとして再現されて何度でも聴けるのはいいことである反面、ライブという出会いを損なうのかもしれない。しかしながら過去の演奏をこうして現代でも聴くことが出来るのはそうした録音技術の恩恵だろう。実際にその場の熱量はもっと凄かったのかもしれないと想像する。ただ今の音源で聴いても十分凄さを感じられるアルバムになっているのは、メールスの観客やそのときの空気を感じられるからだろう。アルバムの中で長大な2曲のみの収録。当時のフリージャズは、延々と尽きるまで演奏されていた。その演奏に感極まる瞬間の坂田明の咆哮に胸を撃たれる。

(ジャズ再入門No.4)

いいなと思ったら応援しよう!