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幻惑の大王、塚本邦雄
『塚本邦雄』坂井修一 (鑑賞・現代短歌)
塚本邦雄短歌の入門シリーズの体裁を取って、百首の一首鑑賞を坂井修一が書いている。塚本邦雄は、前衛短歌のリーダー的存在でもあるし、膨大な短歌と共に評論も数多くあり、一度に捉えるのはなかなか無理な歌人ではあるが、思考としては釈迢空の和歌の世界は日本の敗北で持って終わった世界であり、それ以降の短歌は滅びの挽歌であるというような姿勢と重なるところもあるが、釈迢空はそれを感傷的な心持ちだったのだろうが、塚本邦雄になるとむしろその滅亡したものだから幻想世界で楽しめる、またそういう世界の滅亡を見てみたいとするものがあるのかもしれない。塚本がその対極に置くのが西行の和歌であり、西行には批判的なのだが、むしろそのことはアンビバレントな感情があるような気がする。
踏み出(いだ)す夢の内外(うちそと)きさらぎの花の西行と刺しちがへむ
塚本邦雄『歌人』
塚本の歌に求めるものは否定神学的な神を否定しながらその道が神学的であるような歌道なのかと思う。
歌はずば言葉のほろびむみじか夜の光に神の紺のおもかげ 塚本邦雄『閉雅空間』
そういう塚本邦雄自身が神として崇められてしまう今の歌壇という存在があるとき、塚本はどう思っているのだろうか?
テクニック的なことでは釈迢空と同じように句読点表記で五七五七七の調べを崩していく句跨りと二句切れが塚本短歌の特徴であるようだ。その独特の調べに幻惑される者が多いのだろう。
革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ 塚本邦雄『水葬物語』
突風に生卵割れ、かつてかく撃ちぬかれたる兵士の眼 塚本邦雄『日本人靈歌』