『未来世紀ブラジル』はスチームパンクの先駆けだった
『未来世紀ブラジル』(イギリス/1985)監督テリー・ギリアム 出演ジョナサン・プライス/ロバート・デ・ニーロ/キャサリン・ヘルモンド
解説
モンティ・パイソン出身のテリー・ギリアム監督が、徹底的に情報管理された近未来社会の恐怖を、奇想天外な世界観とブラックユーモアたっぷりに描いたSF映画。20世紀のどこかの国。ダクトが張り巡らされた街では、爆弾テロが相次いでいた。そんな中、情報省のコンピューターがテロの容疑者「タトル」を「バトル」と打ち間違え、無実の男性バトルが強制連行されてしまう。その一部始終を目撃した上階の住人ジルは誤認逮捕だと訴えるが、取り合ってもらえない。情報省に務めるサムは、抗議にやって来たジルが近頃サムの夢の中に出てくる美女そっくりなことに気づく。ある日、自宅のダクトが故障し困り果てていたサムの前に、非合法の修理屋を名乗る男タトルが現れ……。タトル役にロバート・デ・ニーロ。エンディングを巡ってギリアム監督と映画会社の間で意見が衝突したため、複数のバージョンが存在する。
その当時の映画としては『ブレードランナー』や『未知との遭遇』などのCGは使わずとも巨大な未来SFセットに比べればちゃちなように思えるかもしれないが、今見るとそれは最近流行りのスチームパンクというようなジュール・ヴェルヌのSFのような産業革命期の蒸気を動力とした近未来SF映画としての先駆けなのかなとも思う。
テリー・ギリアムがこの映画で描こうとした近未来社会はオーウェル『1984』の世界観と『戦艦ポチョムキン』のオマージュがあったり、フェリーニの幻想性やカフカを思わせる不条理世界、ドイツ表現主義の無声映画を思わせる舞台設定、情報化社会のシステマティックな世界はチャールズ・チャップリン『モダン・タイムス』も連想させる。何もかもごちゃまぜのおもちゃ箱のような映画。
主人公が想像する空とぶシーンは『オズの魔法使い』みたいだし、大型トラックが暴走して逃げるシーンも『ブレードランナー』に似ていたりする。侍ロボットは『大魔神』らしい。ただラストはアメリカ公開版ではハッピーエンド(『ブレードランナー』のラスト)だったらしいが今回はオリジナルのアン・ハッピー版がディストピア近未来映画の真骨頂だった。
コンピューターがタイプライターだったり、手紙を送るのがパイプ伝送システム(カフカの時代の電報)だったり、懐かしさと未来感のごった煮世界も面白い。あとフリッツ・ラング『メトロポリス』のオマージュもあるような。