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シン・現代詩レッスン79

マフムード・ダルウィーシュ「アナット変幻」四方田犬彦訳

マフムード・ダルウィーシュ『パレスチナ詩集』から「アナット変幻」。

アナット変幻

詩とは月にかけられた梯子。
望みなき恋人たちの鏡のように
アナットは詩を庭にかける。
和解できずにいる二人の女として
魂の砂漠に向かう………

マフムード・ダルウィーシュ「アナット変幻」四方田犬彦訳

「アナット」は月の女神で善神バアル(キリスト教では蝿の王というような邪神)の妹。バアルが死んだときに冥府から救い出したのが妹のアナットだという。「望みなき恋人たち」というのは兄妹愛なのか。鏡のようにだから似たもの同士なんだろう。「和解できずにいる二人の女」の一人はアナットで、もう一人はアスタルト(豊穣の女神)。アナットとアスタルトが同一視されていた時代もあるという。アナット=アテナ アスタルト=アプロディーテーという感じのようだ。

ぼくはきみたち二人とも欲しい
愛であり、戦争であるアナット!
地獄に墜ちてもいいよ。
きみが好きだ。

アナットはみずから殺し、
そしてみずからの内に、みずからのため
距離を作り出す。
遥かなる彼女の像の前を通り、
被造物たちがメソポタミアとシリアの地を進むため。
地という地が
ラピスタズリの笏と聖処女の指輪に従う。

マフムード・ダルウィーシュ「アナット変幻」四方田犬彦訳

アナットは犠牲神のようだ。被造物というのは都市化だろうか?地という地が「ラピスタズリの笏と聖処女の指輪」に従うのは、新しい女王のようだ(エリザベスとか?)。

戻ってきておくれ、
真理と暗示の国を
原初のカナーンの大地を、
きみの胸と股の 開かれた大地を
もたらしてくれ。奇跡がジュリコに戻ってきますように、

マフムード・ダルウィーシュ「アナット変幻」四方田犬彦訳

地下に留まったままであるアナットを呼び戻す詩なのだ。そして砂漠であるカナーンの大地を再び豊穣の地へ戻して欲しいのだろう。ジュリコは「ジュリコの戦い」という歌があったがあれがキリスト側の歌か?多分ジュリコで敗れたのだろう。

うさぎ変幻

戦闘少女ウサギは今日も穴倉遊び
セーラー服を脱いでバニーガールでお出迎え
ここは砂漠のオアシス 詩のレストラン
ここは地上の国が滅ぼうとも
墓石の中だから大丈夫
なんならあなたのお気に入りの
詩を刻むわ だから安心して
おやすみなさい
月の女神よ、あんまり照らさないで
死者が蘇るわ ゾンビとなって
わたしの家来たちは どこへゆく
そとは廃墟の砂漠の街に
高速ビルが並び立ち 偽のオアシス
そこは邪悪な集会所
踊り踊らされてハロー、ハロー、ハロウィン
聖夜祭じゃなくて性夜祭なのよ
生贄はわたしたち

ウサギは月に代わってお仕置きよ

やどかりの詩

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