ブラウニー優等生だけど憎めない奴
クリフォード・ブラウンほど「青春」という言葉が似合うジャズ・ミュージシャンはいない(似た感じでブッカー・リトルもそうだが、迷うな)。それはわずか25歳で自動車事故で亡くなったこともあるが、クリフォーフォ・ブラウンが歩んできた道がモダン・ジャズの青春時代だったのだ。最初にビ・バップの創始者パーカーに認められアートブレイキに紹介されジャズ・メッセンジャーズに加入。『バードランドの夜』はメッセンジャーズだけではなくハードバップの記念すべきアルバム。その後にブラウン=ローチ・クインテットを結成してエマーシー・レコードに数々の名盤を吹き込む。
何が凄いって、ダイナ・ワシントン、サラ・ヴォーン、ヘレン・メリル、とそれぞれタイプが違うヴォーカリストの代表作と言えるような共演盤を吹き込む。その間にクラーク・テリー、メイナード・ファーガソンとのセッション。いずれもトランペッタでクリフォード・ブラウンも入れて、三人の腕くらべ的アルバム。そして、ストリングスをバックに朗々とトランペット一本で歌い上げる『with ストリングス』、その間にブラウン=ローチ・クインテットの代表作も吹き込んだ。その中の一枚が『スタディ・イン・ブラウン』なのだ。わずか2、3年の間に驚くほどの名盤を残して過ぎ去ったジャズ・ミュージシャンなのだ。
『スタディ・イン・ブラウン』というタイトルが青春だよな。そして一曲目の「チェロキー」は、チェロキー・インディアンをモチーフにした勇ましいファイテング・ソングだ。闘将マックス・ローチのドラミングでいやが上にも魂が高ぶる。そしてブラウニー(クリフォード・ブラウンの相性)とハロルド・ランド(テナー)のテーマ。その後のブラウニーのアドリブの凄さ。青春だよね。「チェロキー」で始まり「A列車で行こう」(エリントン作)で終わる。アメリカ開拓史のモダン時代の始まりだよね。でも、ブラウニーが一番輝くのは「ジョージのジレンマ」。まさに悩み多き青春のトランペットの音なのだ。マイルスのように決して憂鬱にはならないんだけど、どことなく寂しさが伝わってくる。しかし、ケレン味のない明るさがある。よくブラウニーがもっと長生きしていたら、と言われるが、このアルバムだけでも十分すぎる人生だろう。そうだバド・パウエルの弟リッチ・パウエルも忘れてはいけない。彼も素晴らしいピアニストだけどお兄さんがすごすぎたのでいまいち知名度に欠けるがここでは素晴らしいソロを披露する。それとリッチー・パウエルもブラウニーと同じ車で事故死したのだ。というかリッチーの妻が運転していたんだど。そんなところで影が薄いのかもしれない。
ブラウニーの死は、ロリンズ(このアルバムの後に共演)を失意のどん底に突き落としたり、ベニー・ゴルソン(メッセンジャーズで共演)の「アイ・リメンバー・クリフォード」という名曲を残すことになる。誰からも好かれながら先に逝ってしまういい奴なのだ(たぶん)ブラウニーは。
(ジャズ再入門No.10)