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ブギウギの趣里がウツウツの戦後映画

『ほかげ』(2023年/ 日本/95分)【監督】塚本晋也 【キャスト】趣里,塚尾桜雅,河野宏紀,利重剛,大森立嗣,森山未來

女が暮らす半焼けの居酒屋、
片腕が動かない男との旅、
空襲で家族を失った子供の目から見た、
戦争と人間。
『鉄男』でのセンセーショナルな劇場デビュー以後、世界中に熱狂的ファンを持ち、多くのクリエイターに影響を与えてきた塚本晋也。戦場の極限状況で変貌する人間を描いた『野火』、太平の世が揺らぎ始めた幕末を舞台に生と暴力の本質に迫った『斬、』、その流れを汲んだ本作の舞台は『野火』の直後、終戦後の闇市。戦争で奪われたものと、絶望と闇を抱えたまま混沌の中で生きる人々を、映画はしたたかに描き出す。

主演は、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」のヒロインに抜擢され、今最も活躍が期待されている俳優、趣里。孤独と喪失を纏いながらも戦争孤児との関係にほのかな光を見出す様を繊細かつ大胆に演じ、戦争に翻弄されたひとりの女を見事に表現した。片腕が動かない謎の男を演じるのは、映像、舞台、ダンスとジャンルにとらわれない表現者である森山未來。飄々としながらも奥底に蠢く怒りや悲しみを、唯一無二の存在感で示している。復員した若い兵士役にPFFグランプリ受賞作品『J005311』の監督でもある河野宏紀、戦争孤児を演じた塚尾桜雅は、一度見たら忘れられないその瞳で物語をより深く豊かに彩った。
人間の中に潜む暴力、分かち難く絡む死と生を描いてきた塚本晋也が今を生きる全ての者に問いかける祈りの物語。

朝ドラの天真爛漫の役とは間逆な趣里の演技。戦後日本の女性の悲劇を体現した役で、飯屋の未亡人を演じる。彼女の元に戦争孤児と敗残兵がやってくるのだが、疑似家族的な奇妙な関係である。飯屋の女は生活の為に女を売る商売もやっているのだが、彼女にとっては戦後も戦争は続いていた。

むしろ戦後の悲惨さを描いた映画であり、登場人物は普通の人々であり、勇ましく戦争を戦った者ではなかった。河野宏紀演じる敗残兵は元教師であり、平和な教師時代を三人で演じるのだが、この映画の唯一の明るいシーン。だがそれは戦後の悲惨さを際立たせるための演技に過ぎなかったのだろう。彼は戦争のトラウマを抱えており、登場人物すべてがトラウマを抱えているのだが、シェルショックというような音(銃声のうような)よって戦争を想起してしまい彼が戦地でやってきた残虐な戦争の中にいる。

終わらない戦争というのがテーマだと思うが、一番それをわかりやすく物語っているのが森山未來演じる敗残兵だろうか?森山未來の役は狂気的を抱えて生きている元兵士で、ほとんど森山未來の役そのものなんだが、原一男監督の『ゆきゆきて、神軍』の主人公奥崎謙三のようだった。ここの物語は先の物語と分離している(精神的には繋がりがあるのだが)ようで、唐突な感じがした。

ドラマ内ではそこが一番の悲劇なのだが、女子供が戦争犠牲者になる戦後の日常から遊離しているように感じた。そこは物語が複雑になりすぎてわかりにくいというより、より戦争犯罪というものを明らかにする為に必要だったと監督は考えたのかもしれない。子供を通して二つの事件が結びつくのだがそれは図式的な感じがして退屈になったかもしれない。

子供が再び趣里の飯屋に元に戻ってきて、その中で趣里の過去も明らかになるのだが、そこは初めは明らかにしていなかったので、分かりにくかったと思った。まあ、映画のストーリーとしては常套手段で、ミステリー的に明らかにする方向性だったのかもしれないが、そこがわかりにくいと感じた。それは最初戦争孤児を拒否していたのに、次第に彼の母親代わりとなる態度の豹変が分かりづらかったこと。母性本能と言ってしまえばそれまでなんだが。

そして急に教育ママのようになるのもなんか違和感を感じてしまう。それは子供だけはまともに生きて欲しいという願いなのだが、そこがファンタジーじみて感じられてしまうのだ。そういう子供もいただろうが、あれだけの体験をしながらまともに働く(それも最低限の仕事として)気になれるのかどうか?まあ、死んでいく母の願いなのだろうが。あとこの母との関係が親子関係よりは、恋人関係になっていくのもわかりにくい要因だったかも。彼女にとっては生きていく糧が欲しかったのだと思うがその部分だけ綺麗な夢だったのだろうか?

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