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シン・現代詩レッスン75
鮎川信夫「泉の変貌」
『(続) 鮎川信夫詩集』 (現代詩文庫 )から「泉の変貌」。いつもと違うのは、今日はイメージの方が先にあった。それは日記に書いた夢の話。
「泉の変貌」を選んだのは、この詩が恋愛詩であり、泉といいうイメージが湧く詩であるとおもったからだった。
泉の変貌
明日は恋なき者に恋あれ 明日は恋ある者に恋あれ 詩人
白く聳えたつ
大理石の高さも
さんざめく市場の広さもない
この森の庭園には
ただ壜のようにつめたい気体がゆれる
エピグラフが冗談のような言葉だな。詩人って誰だよと思う。そんな詩人は滑稽な詩人のような気がしてしまうのは、ここには恋の欲望しか書かれていない。そういうことか?
その恋の欲望が壜から流れる泉という感じなのだろうか?これは夢のようでもあるな。
あなたは
泉のまえに膝まづく
ゆるい流れが髪をほぐす
水底にはいつもの鏡のやうな階段があって
愛も
憩ひも
みんなそこに
憑かれたかたちで映ってゐる
夢の導入部のような展開。「あなた」はギリシャ神話的な絵画をイメージする。泉に「鏡のやうな階段」というのが「アリス・イン・ワンダーランド」の世界に誘う。けどちょっとありきたりな展開のようにも思える。
一定の時刻と
一定の雰囲気のなかでしか
慄えることのない獣たちよ
みんなわたしの言ふことを信じないか
ヌウメノンよヌウメノン
さうだ雨の降る日に
死者をして死者を葬らしめよ
永遠より短い時間のうちに
「ヌウメノン」がなにか呪術廻戦の呪いのようなんだが、ギリシャ語で「仮想のもの」ということで当たってなくもなかった。
この場面は使いたいな。「ヌーメノン」とか。
かつて地上に祭があったといふ
あなたも
日没になると
西方の窓を照らしだす
美しい火災の意味を知るだろう
このへんが好きなところだった。ここも使えそうだ。
ああ幻か
いくたびに流された血は
もはやこの身にもどらない
いつかはきっと
苦しみ拓かれて
七つの壁が嘆きはじめ
あなたのからだから迸る水で
わたしの天は奈落へ崩れおちよう
塵や灰の底に沈み
化石の街の
乾いた洞窟のなかに
さかんなる風のはたち
香ばしいネクタルの泉となって
炎と心の伝説を歌ひ
どんな樹木を育ててゆくのだろう
ラストのスタンザ(章)は現実に還り、プラトンの洞窟のイメージか?樹木が残されるのがいいかな。樹木は比喩か?というかプラトンの洞窟の映像のイメージなのか?こういうところが好きだった。呪術廻戦の呪術のような樹木霊のイメージ。
夢の変貌
無意識劇の始まりは
賭博場のポーカー・ゲーム
君も噛ませ役の家来を連れて
いかさまゲームさ
掛け金は君の身体と領土
五枚のカードは君のハートと
ぼくのクラブが混ざって
ダイヤは君の家来と
クローバーはぼくの家来の
いかさま博打
そうさ、ロイヤルフラッシュで
勝負は決する。
西方の窓に見える君の領土も
やがて城は燃え、反乱が起きるだろう
そろそろ王の使いがやってくる時間
君の手札はもうないのだから
そうして夢から覚めて
修羅雪の姉さんが
首を掻き斬るのは
これも幻
今日は「緋牡丹お竜」のお出ましか?