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光源氏の恋と母たちの罪業

『源氏物語 19 薄雲』(翻訳)与謝野晶子( Kindle版)

平安時代中期に紫式部によって創作された最古の長編小説を、与謝野晶子が生き生きと大胆に現代語に訳した決定版。全54帖の第19帖「薄雲」。源氏は二条院に越すように勧めるが、明石の君はまだ躊躇していた。それなら姫君だけでも預けてくれという源氏に、娘の将来を思えばそれが最良の策だろうと決心し、涙の別れをする。その頃太政大臣が薨去し、天変地異が続いた。藤壺は危篤状態になり源氏と最期の言葉を交わし亡くなった。源氏は悲嘆に暮れる。藤壺に仕えていた僧都が悩んだ末、冷泉帝にあなたは源氏の子供であると伝え、帝は驚愕する。

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いつしか光源氏と恋を楽しむ物語から母親たちの物語になっている。その点で明石の君の悲劇はただ天皇に仕える娘を生むだけの存在になったのが哀れである。物語的に言えば自身の身を犠牲にしてヒーロー(ヤマトタケル)を救済する女神伝説(弟橘姫)をなぞっているのか。明石の君の守護神の住吉大社が水の神であり、明石の君はその申し子であり、また地方と中央を結ぶ道(明石~大堰は淀川を通じ京に至る)ならば光源氏の財源として地位をもたらしたのだという。その母上(元は皇族、光源氏の母である桐壺更衣の従姉妹)の地位だけを求める姿に現代の教育ママを重ねてしまう。藤壺もそういう意味では同罪であり、ただ彼女は罪を意識するのだ。しかし、それを冷泉帝に伝えること無く自身の罪として享受するのである。まあ秘密は明らかにされるのだが。

明石の君と姫君の別れの和歌。

(明石の君)
末遠き二葉の松に引き別れいつか小高きかげを見るべき
(光源氏の返し)
生(お)ひそめし根も深ければ武隈の松に小松の千代をならべむ

「薄曇」という題は藤壺の崩御の様子を描いたときの様子を表したもので、藤壺の罪の意識が桜が満開なのに曇り空にさせるのか。藤壺の葬儀に光源氏の哀しみの和歌。

(光源氏)
入り日さす峰にたなびく薄曇(うすぐも)はもの思ふ袖に色やまがへる

その後に斎宮(梅壷)女御にちょっかいを出すのだ。光源氏のいい加減さがわかる帖である。

(梅壺)
いさりせしかげ忘られぬ篝火の浮舟やしたひ来にけむ
(光源氏)
浅からぬしたの思ひをしらねばやなほ篝火のかげは騒げる


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