歌の力
『過去のない男』(2002年製作/97分/フィンランド)製作・監督・脚本: アキ・カウリスマキ 出演: マルック・ペルトラ/カティ・オウティネン/アンニッキ・タハティ/マルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカ
軽妙な喜劇映画を観たくて、先日『愛しのタチアナ』を観て良かったので再びアキ・カリスマキ監督作品を観た。『浮き雲』に次いで敗者三部作らしい(もう一作は『街のあかり』で、『浮き雲』と『街のあかり』は見ているのに記憶にない。)。記憶喪失の男の話なのだが、記憶と共に感情も喪失したようで、機械的に未来を進んでいく男として描かれている。
喜劇のパターンで機械性というのがあったが、まさにこの映画に当て嵌るのだ。しかし彼が求めるものに音楽があった。アキ・カリスマキの映画の特徴で音楽は外せない要素だ。そこに感情を揺さぶられるものがあるからなのだ。途中、日本酒に寿司を食べるシーンではクレイジーケンバンドの『ハワイの夜が流る』。
ノスタルジックな記憶を呼び覚ますような懐メロとセンチメンタルな歌詞だが、この映画の推進力として音楽は欠かせない要素である。地元のバンドにロックンロールの演奏を勧めるのは、彼の深層にロックンロールのリズムが流れていたからだろうか?
ただロックンロールだけではなくフィンランドの古い流行歌も地元の救世軍のバンドで演奏されるのだが、それを歌うのはフィンランドでも有名な歌手だという。
奇妙な出会いというのか異文化世界への興味というか。アキ・カリスマキの映画にはそういう要素もあり、ホームレスが若者に襲撃されるのを廻りのホームレスが助けるというのは、外国人労働者の問題もあると思う。そういえば記憶喪失男は外国人労働者として警察から疑われるのだった。身元が不明なので事件に巻き込まれた(何故か銀行強盗に巻き込まれ、疑いをかけられてしまう)ときに犯罪者だと見なされる。そういうアイロニーも含んでいた喜劇だった。そして庶民の流行歌は権力とは別の中で起きるというのは朝ドラと繋がっているかな。そういう流行歌の歌の力を感じさせる映画でもあった。
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