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仕立て屋の女房の亭主はマザコンというような映画
『青いカフタンの仕立て屋』(2022/ フランス・モロッコ・ベルギー・デンマーク)監督マリヤム・トゥザニ 出演ルブナ・アザバル、 サーレフ・バクリ、 アイユーブ・ミシウィ
『モロッコ、彼⼥たちの朝』マリヤム・トゥザニ監督最新作! 旧市街の仕⽴て屋で紡がれる、夫婦の愛と決断の物語。
モロッコ、海沿いの街、サレ。旧市街の路地裏で、ミナ(ルブナ・アザバル)とハリム(サーレフ・バクリ)の夫婦は母から娘へと世代を超えて受け継がれる、カフタンドレスの仕立て屋を営んでいる。伝統を守る仕事を愛しながら、自分自身は伝統からはじかれた存在と苦悩するハリム。そんな夫を誰よりも理解し支えてきたミナは、病に侵され余命わずである。そこにユーセフ(アイユーブ・ミシウィ)という若い職人が現れ、誰にも言えない孤独を抱えていた 3 人は、青いカフタン作りを通じて絆を深めていく。そして刻一刻とミナの最期の時が迫るなか、夫婦は“ある決断”をする。彼らが導き出した答えとは。
カフタン(アラブの刺繍を施した民族衣装のような)ドレスの仕立て屋の夫婦の物語。ただ夫には隠し事があり、それは夫はゲイだった。そんな店は人手不足のために若い男を雇うのだが、妻は気に入らない。ある日生地が無くなったというので若い男は妻から疑われてしまう。妻は癌に侵されていて残り少ない日々を夫は懸命に介護するが店の方が疎かになってしまう。生涯に一度作れるかというドレスの注文を受けているのだった。
前半は夫と妻と若い男の三角関係のドラマで重苦しい。ルコント『仕立て屋の恋』を連想させたが、後半はこれまたルコントの『髪結いの亭主』を想起させる映画だった。それはつかの間の人生を楽しもうとする夫婦の愛情溢れる映画になっているからだ。こういう映画はダンスシーンがいいんだよな。ダンスシーンがいい映画は必ず傑作映画になる、のはゴダールのセオリーだよな。
ただ妻と夫の関係は男と女の関係よりも母と息子のような関係なのだ。夫の母が夫を産んだ後に亡くなったので父から疎まれる。そういう孤独な時代を過ごしてきたときに現れたのが前向きの妻だった。そんな妻を迎えて店も繁盛していく。ただ刺繍という手作業なので時間がかかるのだ。その手間と合理化に押されていく社会と。妻は客との間でうまく取りなし、夫は作業に専念する。そこに現れてきた謎の男。謎でもなんでもないのだが、同性愛傾向があるというような(でも誘うのは夫のほうだった)。
妻はその男が来てから病が酷くなり怒りっぽくなる。店は妻の顔で成り立っているような感じなのか?女店主という感じ。その中で針子として働く二人の男。糸がもつれるように絡まっていくのが見事な演出。何と言っても刺繍の美しさだろう。それだけでも見る価値はあると思う。
そしてやせ衰えていく妻は、若い男が二人のために食事を運んでくれたり料理を作ってくれたり店の留守番をしてくれることに感謝するようになり、意地悪をしたことを詫びる。新しい息子を迎えたような三人の良好な関係が続くが………
青いカフタンドレスは結婚式の衣裳なのだ。ふと妻が若かった頃は夫にそんなドレスを作る技術もなかったと若者に言う。だから結婚式も挙げてないと。察しのいい人はもうラストが読めるかもしれない。そうラストが感動的に涙を誘う映画になっていた。結局夫の母親(妻)離れの映画だった。その通過儀礼としてのカフタンドレス制作の作業。
イスラム圏でもゲイはいるのだという映画でもあるのか?今風と言えば今風で、日本人の母性にも訴える映画となっている。